誰にでも自分の人生や意識を大きく変えてくれる出会いが必ずあります。声優の場合に例えていえばどんなにいい声をもっていても、どんなに演技力や喋りの実力があっても、必ずしも人気声優になれるという保証はありません。ファンの間で人気の出る「キャラクターとの出会い」が必要なのです。私たちはあくまでもテレビや映画に登場するキャラクターや俳優たちの陰の声だからです。アニメーターが作り出すキャラクターの魅力は絶大です。だからこそ難しい。その理由は、コミックや
SF 小説のオリジナルを読む読者は既に声のイメージを無意識に作り上げているからです。
私たち声優にとってこれはものすごいプレッシャーで、オーディションのお知らせが来たら本屋に走り、原作を読んでそのキャラクターの性格や話し方、笑い方、泣き方、怒り方を研究してから臨みます。百人単位の声優が受けてたった一人しか勝ち残れない。その上もし声がファンのイメージとかけ離れていたら、「何であの声優を使うの?ぜんぜんイメージに合わない!」なんてお叱りの声がテレビ局や制作会社にがんがん届きます。だから必死なのです。と同時に、大ブレイクするとすでにわかっているアニメのヒーローやヒロインの声の仕事を幸運にもつかむことができれば、声優としての人気は急上昇。皆さんもおわかりのように、日本の漫画家やイラストレーターたちが描くキャラクターたちは個性的で魅力的で「こんな人が現実に自分のそばにいたらいいのになあ」とまで錯覚するような主人公がたくさんいますよね。めちゃくちゃ感動してしまうコミックだって少なくありません。日本の漫画やアニメは世界的に類を見ない秀逸な文化です。

私の声優人生にとって大きなチャンスを与えてくれたのが、『クラッシャージョウ』 という劇場用アニメーションでした。今でもファンの間で「時代を超えた
SF アニメの最高峰」と言われているそうです。それもそのはず 『クラッシャージョウ』 は高千穂遥原作のベストセラー・シリーズで、表紙と挿絵は「ガンダムの人気は彼のキャラクターによって生まれた」と言われる安彦良和さん。その安彦さんが監督・脚本も手がける劇場用アニメなわけですから、誰もがその主役をやりたがっていました。新人の私にとってすごくラッキーだったのは、オーディションの条件が「主役2人は今までにヒロインをやったことのないフレッシュな声優」だったこと。そしてプロデューサーが、「脇を大ベテランの声優陣で固めて最高のキャスティングで仕上げたい」と考えていたこと。1983年当時、私はまだヒロインをやったことのない
"ホヤホヤの新人" でした。オーディションを受けた後は、自分の部屋の壁に雑誌ですでに特集されていた人気ヒロイン・アルフィンの絵を張って「受かりますように」と、本当に毎日手を合わせていました。そしたらなんと幸運にもアルフィンの声に抜擢されたのです。『クラッシャージョウ』
は、私が想像していたよりはるかにすごい人気作品で、どこのイベントに行ってもたくさんのファンが徹夜で並んで私たちを待っていてくれました。それから、アルフィンは私の声優人生を大きく変え始めました。アルフィン人気を追いかけるように、洋画の主役の仕事が舞い込みました。ジャッキー・チェンの映画では女優のマギー・チェンの吹き替えを何本もやりました。洋画のシリーズものは、『ラブボート』
のローレン・ティウス、『ゲッツ・スマート』 のヒロイン99号、『Chips』 の紅一点キャシー、『サーティーサムシング』
のエミー賞受賞女優パトリシア・ウィティグ。アニメは 『マクロス』『オーガス』。ラジオは深夜放送でのアニメ生放送番組、ラジオドラマ、そして音楽番組の
DJなどの仕事をさせてもらいました。アルフィンというキャラクターとの出会いが、私の声優人生に大きな宝箱を運んでくれたと感謝しています。みなさん、チャンスがあったら
『クラッシャージョウ』 の DVD や原作本をぜひ!おもしろくて、迫力満点です。
|
 |

BADANIMALS オーディオ・ミキシング・ルーム。ノースウエストでトップの音作りスタジオとして有名。ここでいろいろな有名ゲームが録音されている。

叫びと驚きの声の表情。

生徒たちの練習風景。

チームドリームキャッチャーズのサクラコンでのパフォーマンス。
|