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鵜の目・鷹の目:スタートでつまずく「ドクターバンク」制度 /茨城

 <うのめ・たかのめ>

 ◇応募ゼロに県PR強化

 ◇受け入れ態勢の抜本的見直し 「魅力ある職場環境」課題

 慢性的な医師不足を解消しようと、県が昨年3月下旬から募集を始めた「いばらきドクターバンク」制度が、スタートでつまずいている。医師を県職員として採用し、県内の病院に派遣する制度だが、31日時点で応募者はゼロ。県はPRを強化する方針だが、そもそも他県の同様の制度に比べ「魅力の乏しい職場環境」との指摘もあり、受け入れ態勢の抜本的見直しが迫られている。【山内真弓】

 応募対象は、医師免許を持つ初期臨床研修修了者。派遣先は、へき地医療の拠点病院である▽常陸大宮済生会病院▽北茨城市立総合病院▽石岡第一病院の3病院を明示し募集している。年収は、10年目の医師の場合約1200万円で、県職員事務職の課長クラスの年収に相当。派遣期間は原則2年間だが、4年まで延ばせ、最終的には「勤務医として働いてほしい」(県医師確保支援室)との期待もちらつく。

 県は「年間5人程度の応募」を目標とし、年3回程度開かれる研修医や医学生向けの就職説明会で制度を説明したり、県内出身の医師ら約580人にパンフレットを郵送するなどしてきた。しかし応募はおろか、反応はほとんどなかった。

 ■個性ある先駆例

 県は、先駆的な成功例である長崎県や宮城県の制度を参考に導入したはずだった。しかし地域の特長を生かし、派遣医師への支援を手厚くした両県の水準に、本県が達しているとは言えない。

 04年にスタートした長崎県では、これまで同制度による7人の採用に加え、地元自治体と直接雇用を選んだ医師が22人いる。年収は医師10年目で1600万円程度だ。有人離島が55ある長崎では、60年代から医師確保に取り組んでおり、同県医療政策課は「(離島は)救急車も簡単に来られない。切迫感が他県と違う」と説明する。

 離島に派遣された医師が休日もなく往診し過労にならないよう、周辺地域の医師が協力して代診医師を送るネットワークを確立。前任者と家族ぐるみで話す場を設け、医師の不安解消に努めている。

 着任した医師を最終的に正式雇用したいという本音は長崎県にもあるが、同課は「一度着任したら抜け出せないと思われると敬遠される」と指摘する。「出ていく先生を気持ちよく送り出すことも大切。けんかするとウワサは広がる」と、閉鎖的運営にならないよう心掛けているという。

 一方、都市部の仙台市を除き医師不足に直面する宮城県は05年に制度を開始し、これまで13人の医師を採用。派遣先は1人診療所ではなく、地域医療とともに最新技術を習得しやすく研修体制の整った中核病院で、「勉強しやすい環境」づくりに尽力する。同県医療整備課は「優秀な指導医が多かったり、専門性に強みのある病院が人気」と話す。

 ■どっちつかずの茨城

 へき地に特化した長崎と、技術習得を重んじる宮城は、採用対象となる医師の方向性は違う。しかし地域医療の専門的技術を身につけ、総合医としてのキャリアアップを目指す医師にターゲットを絞り、採用後はきめ細やかな支援を惜しまない点は共通している。

 一方、本県が募集した3病院は、長崎の離島ほどへき地ではなく、宮城の拠点病院ほど技術習得に適した場でもなく、方向性がどっちつかず。しかも代診などの支援体制は整っていないため、若手医師からすれば「メリットが少ない」(都内の医大出身者)と映る。

 都内の医大を卒業後、県内で働く県出身のある医師は、制度の不人気について「県出身の医師が働きにくいと感じるのに、他県から医師が来るわけがない」と厳しい。公立病院の人員配置が自治体主導で決められ「現場の考えが反映されず、専門や能力に合う適材適所になっていない」と風通しの悪さを指摘。同制度の派遣先を「県内で魅力ある病院に優先的に配置する工夫が必要」と提案する。

 県医師確保支援室担当者は「代診医師を用意したり、リーディング病院を作る必要がある。設備投資には時間がかかる場合は、人的な部分で手厚くするしかない」と対策を講じる方針だ。また、派遣先についても「3病院は要望があったので明示した。医師の希望があれば、他の病院でも検討する」と柔軟性を見せている。

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 ◆記者からひと言

 ◇現役の働きやすさにも目を

 地方都市の医師不足は全国共通の悩みだが、なぜ本県はこんなに人気がないのか。県関係者は「医学部が筑波大にしかないから」と話すが、成功例で紹介した宮城県も医学部があるのは東北大だけだ。言い訳にならない。

 宮城県担当者は応募の多い病院について「先輩の勧めで決める医師が多い。ウワサ話も影響があるので良い話が流れるように神経を使う」と話していた。逆を言えば、悪いウワサが広まれば、PRをしても応募は期待できないということだ。

 取材の中で、県内の医療機関で働く医師が「現場の声が反映されない」と閉鎖性を嘆いていたのが気になった。ドクターバンクの派遣先病院の環境整備も大切だが、より根本的には、先輩である現役の医師にとって働きがいのある職場にしていくことが必要ではないだろうか。

毎日新聞 2010年4月1日 地方版

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