猫森日記

2010-03-29

The Future of the Internet--And How to Stop It 00:03 The Future of the Internet--And How to Stop It - 猫森日記 を含むブックマーク


The Future of the Internet--And How to Stop It

The Future of the Internet--And How to Stop It

インターネットが死ぬ日 (ハヤカワ新書juice)

インターネットが死ぬ日 (ハヤカワ新書juice)

翻訳者ブログ

邦訳本はハヤカワ新書juiceシリーズ*1

インターネットの未来を予測し、望ましくない未来については、そうなっていくことをどうやって防ぐか、を説く本のよう(私はまだ全部は読めてない)。前半第1-5章でインターネットの興隆を描き「生み出す力」を備えた「肥沃な気風」のメリット・デメリットを並べて、さて「生みだす力」を保ったままセキュリティを確保していくにはどうしたらいいかを考察する、という段で、第6章として「ウィキペディアに学ぶ」という章が出てくる。

第六章 ウィキペディアに学ぶ

オランダのドラハテンでは、一風変わった交通管理の実験が進行中である。四万五000人ほどが使う道路を「道路標識廃止」とした、つまり道路標識のほとんどを取り払ってしまったのだ。これは「危険なほうが安全」と呼ばれる交通計画アプローチで、ドラハテン以外にも欧州各地で行われている。・・・

にわかには信じがたいかもしれないが、今のところ、安全性が飛躍的に高まるという結果になっている。何も考えずに従えばいい標識がなくなったため(実際には七〇%が違反することが研究によって明らかとなっているが)、回りに気を配りながら慎重に運転せざるを得なくなったのだ。・・・

・・・交通安全工学の専門家、ハンス・モンデルマンは、ドイツの有名週刊誌『シュピーゲル』のインタビューで次のように語っている。「たくさんの規則が設定されているから、互いに気を配るという人としての大事な能力が失われてしまうのです。われわれは、社会的責任に配慮しつつ行動する力を失いつつあります。指示されることが多いほど、自分で判断しようという責任感が小さくなるのです」

・・・法律では、規則と規範が昔から区別されてきた。規則はあいまいになりにくく、うまく作成すれば、してよいことを明確に知らせることができる。状況によっては非現実的になったり、最悪の場合、危険になったりすることはあるが。これに対し、状況に合わせた行動を許すのが規範である。行為者は利己的であることも多いが基本的に適切な判断をするはずだと言う考えに基づくものであり・・・

・・・規制が厳しくなればなるほど、規制で縛られているところのみを順守するようになる。・・・

『インターネットが死ぬ日』第六章冒頭部分(232-24頁)より

「道路標識廃止」実験、"「危険なほうが安全」と呼ばれる交通計画アプローチ"?えっと、どこかで聞いたことがあるような、と思ったら、ウィキペディアの原則(規範?)への前振りだった。

「危険なほうが安全」という前述の実験は、別のアプローチがあることを示してくれた。従来の信賞必罰が他アプローチと同じくらいにパワフルでありながら、アプライアンス化など統制管理点を通じて実現する通常の規制と異なり 生み出す力を犠牲にしないやり方だ。・・・(236頁)

・・・「指示されることが多いほど、自分で判断しようという責任感が小さくなります」を思い出していただきたい。幸運が重なった結果の瞬間的なものにすぎないかもしれないが、その逆もまた真であることをウィキペディアは示している。指示されることが少ないほど、自分で判断しようという責任感が大きくなるのだ。(266頁)

「危険なほうが安全」という言葉で、アジアのあるまちかどで見た光景を思い出す。二輪三輪四輪車がひっきりなしにいきかう広い道路の真ん中を牛が散歩する、立ち止まる、それでも誰も驚かない。信号はあってなきがごとしで、誰も守らない、あてにしない。歩行者の横断は車をにらみながら自分の判断で。ハイウェイや渋滞箇所ではしばしば逆走車に出くわす・・・日本人の神経では到底運転できそうにないカオス。それでいて事故も(あまり)起きない。*2

ウィキペディアでは、こまごました規則はいちいち決められてはいない*3。ただポリシーとガイドラインが進むべきおおまかな方角を>最大の最高の百科事典をつくろうという方角を示している。こまごましたルールを先回りして決めるより、その場その場の議論から最善の判断を引き出すことを目指せばよいのだし、幾つもの判断を重ねるうちに、新しいガイドラインが導き出されることもあるだろう(ということを実感できるようになるまで、私も昔はずいぶん戸惑ったものだった)。

とはいえ、方針はとても便利なマクロのようなものだとしみじみ思う。存命人物をめぐる方針や検証可能性がまだなかった時は、たたきやまとめをやりたがる人たちに毎回一から説明と議論を始めなければならなかったのに比べ、今では、これこれをお読みください、で大幅にエネルギーを節約できるのだから。

*1:アンドリュー リーの『ウィキペディア・レボリューション』と同じ

*2:「整備不良のトラックの事故とか 居眠り運転」とか、へこむ程度の事故とかは頻発しているらしい

*3:まあ、事細かに決めたがる人もしばしば登場する。