哨戒艦沈没:国防長官の国会発言が意味するもの

事故初期の推定とは食い違い

 国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官は29日、国会で、哨戒艦「天安」沈没事故の原因について、「北朝鮮の介入の可能性を排除しない」とする答弁を行った。金長官が、「政府や国防部は、北朝鮮による介入の可能性がないと言ったことはない。あらゆる可能性をすべて検討し、結論を下さなければならない」と語ったのは、文脈だけを見ると、原論的だといえる。韓国政府関係者は、「まだ沈没した天安の艦尾に関する調査が行われていない状態で、事故原因について文字通りあらゆる可能性を考慮しなければならない、というレベルの発言。金長官は、別段の意図なく原則的な発言を行った」と語った。

 とはいえ、これまで大統領府(青瓦台)や韓国政府は、こうした水準の発言すら極度に控えてきた。韓国政府が、万一確証がない状態で北朝鮮関与の可能性に言及した場合、南北関係や国際社会に及ぼす影響は計り知れないからだ。大統領府の関係者らは事故当日の26日、直ちに「(今回の事件に)北朝鮮は関与してはいなかった」と述べ、28日にも「北朝鮮が関与している兆候はない」という趣旨の立場を繰り返した。大統領府の関係者は29日、「政府としては、天安に関する直接の調査が行われるまでは慎重な態度を取るしかなく、そうするのが当然ではないか」と語った。

 金長官のこの日の発言は、原論的なものであるとはいえ、こうした大統領府の基調を超えたものだという点から、注目する必要がある。これまで国防部は、今回の事件に対する北朝鮮の介入の可能性を繰り返し報告してきたという。国防部は、李明博(イ・ミョンバク)大統領が主催する安全保障関係長官会議で、今回の事件の原因として、北朝鮮の潜水艦による魚雷攻撃、半潜水艇による魚雷攻撃、機雷による攻撃などを優先的に報告した。しかし大統領府は、このような国防部の報告内容について、一切口をつぐんだ。大統領府が安保関係長官会議の内容について極度に情報統制を行っているのは、韓国政府の慎重な態度を浮き彫りにすることには役立っているものの、一方で事故原因をめぐる混乱をあおる要因となっている、という批判も出ている。

 また合同参謀本部情報参謀部は、北朝鮮の挑発可能性を問う議員の予想質問に対し、「軍では北朝鮮が挑発し得る可能なすべてのケースを想定し、調査を進めており、現在までに把握された爆発音、停電、短時間での沈没などの手掛かりを考慮すると、北朝鮮による攻撃の可能性もあると見ている」という内容の答弁を準備していることが確認された。こうした国防部の立場が、幾つもある可能性の一つとして「北朝鮮の行為」を除くことはできない、という原論的レベルのものなのか、さもなければ、実際にある程度の手掛かりや根拠があるのか-という部分については、明らかではない。ただし、国防部としては、軍の本分上「仮想の敵」である北朝鮮を優先的に疑わざるを得ない、という立場が反映された、といえる。

 金長官が語った通り、北朝鮮の介入の可能性があるかないかは、天安に関する初動調査と引き揚げ後の精密調査により、徐々に明らかになるものと見込まれる。とはいえ、外部からの攻撃による沈没であることが明白になり、それが魚雷あるいは機雷によるものと結論づけられても、破片など決定的な物証が確保されない場合、北朝鮮の介入かどうかについては迷宮入りする可能性も排除できない。現在のところ、事故当時、北朝鮮の半潜水艇などがレーダーに捕捉されるなどの特異動向は把握されていない-という韓国軍当局の説明があるからだ。こうした点から、金長官のこの日の発言は、「パンドラの箱」の禁忌を破ったものといえるが、その箱の中に何が入っているのかは、まだはっきりしない状況だ。

朱庸中(チュ・ヨンジュン)記者

【ニュース特集】哨戒艦「天安」沈没

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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