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社説:日米密約検証 ウソのない外交で信頼を

 戦後の歴代政権が否定し続けてきた日米間の密約について、岡田克也外相が初めてその存在を認めた。検証を進めてきた有識者委員会(座長、北岡伸一東京大教授)の報告書を受けての発言である。併せて公開された関連外交文書は日米安保関係についての第一級の資料であり、こちらも大きな歴史的意味を持つ。

 核兵器を搭載した米軍艦船の一時寄港などについて、国民への説明でウソに頼った説明をし続けてきた歴代政権の責任は大きい。外交・安全保障政策は国の根幹にかかわる。今後は、民主国家にふさわしく、事実に即した説明によって国民の信頼を得ていかなければならない。密約検証は政権交代の効果であり、岡田外相の指導力を高く評価したい。

 ◇非核三原則堅持は妥当

 岡田外相は会見で、過去に米艦船による核持ち込みがあった可能性を認めるとともに、非核三原則を堅持する考えを強調した。妥当な結論だろう。外相は米国の核政策の変更で戦術核の艦船搭載がなくなり、「持ち込ませず」に反する事態はもはや起こらないとの認識だ。

 「核の傘」への依存にとどまらず日本にとって米国との関係は極めて重要だ。鳩山政権は「日米同盟の深化」を掲げている。岡田外相が「本件調査によって日米安保体制の運用に影響を与えるものではない」と説明している。しかし核持ち込みについての日米間の解釈の違いが明らかになった以上、放置せずに解決を図ることが鳩山政権の重要な責務だ。

 今回の検証対象は(1)1960年の安保条約改定時の「核持ち込み」(2)同じく安保条約改定時の「朝鮮半島有事の際の在日米軍基地使用」(3)72年の沖縄返還時の「核再持ち込み」(4)同じく沖縄返還時の「原状回復費の肩代わり」の4点だった。報告書は(1)(2)(4)については「密約」と認定した。だが(3)の佐藤栄作首相とニクソン大統領という日米両首脳の署名入り文書については、密約の定義とした追加的な責任、負担性が薄いとして「必ずしも密約とは言えない」とした。この認定については強い違和感がある。両国政府最高責任者の署名入りの極秘扱いとされた文書だけに常識的にはわかりにくい。しかも、米国側で文書がどう扱われているかが不明だ。

 特に重要と思われるのは(1)の問題である。

 核搭載の米艦船が一時寄港する場合、安保条約が定める事前協議の対象にならないというのが米側の立場だった。ところが日本政府は国会答弁などで「事前協議の対象になる」と説明し続けた。実際に米艦船が寄港した際には、米側から事前協議の提起がないから核搭載はないはずという説明がなされてきた。これについて報告書は、日米間で「暗黙の合意」という「広義の密約」が存在したと指摘。「日本政府の説明は嘘(うそ)をふくむ不正直な説明に終始した。民主主義の原則、国民外交の推進という観点から見て、本来あってはならない」と強く批判した。

 安保改定後に駐日大使に赴任したライシャワー氏は63年に大平正芳外相に対し米側の解釈を伝えた。その後、日本側は米側の解釈を認識していたにもかかわらず、国民にウソの説明をし続けた。ライシャワー氏は大使退任後の81年に本紙の取材に応じて、一時寄港について米側の考えを証言したが、日本政府はこの指摘も否定し続けた。核搭載艦船の寄港に関する日米の解釈の違いを日本政府が認めるのも今回が初めてだ。

 ◇文書管理・公開の改革

 広島、長崎の被爆を経て敗戦を迎えた日本では核兵器に対する強い拒絶感があった。国民感情と日米安保体制の現実との間には大きな落差があった。報告書はそうした時代背景に一定の理解を示しつつも、特に冷戦終結など状況が変わった後も不誠実な説明を続けていたことを厳しく批判している。外相も会見で米国が核の艦船搭載をやめた91年以降も漫然と同じ国会答弁を続けてきた自民党政権に対し「極めて遺憾だ」と述べた。まさに同感である。

 (4)の沖縄返還に伴う原状回復補償費400万ドルの肩代わりについて報告書は「広義の密約」に当たるとし、「沖縄返還に伴う財政経済交渉には不透明な部分が多々ある」と指摘した。だが、米側で公開された当時の吉野文六アメリカ局長らがサインした文書が発見されなかったのは問題だ。この密約をめぐっては関連文書を入手した西山太吉元毎日新聞記者が72年に国家公務員法違反で逮捕、起訴された。有罪を確定させた78年の最高裁は「国会における政府の政治責任として討議批判されるべきもの」と述べたが、政府や国会のさらなる解明を期待したい。

 報告書はまた、「重要文書の管理に対する深刻な反省が必要」と強く批判した。当然あるべき文書が見つからず、見つかった文書に不自然な欠落が見られたという。岡田外相が省内に「外交記録公開・文書管理対策本部」を設置し、すみやかに改善を図ることを明らかにしたのも当然の措置だろう。これまで外交文書は30年で公開するというルールがあったが、有名無実化していた。来年4月に施行される公文書管理法が定めるように公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」である。今回の検証を機に、公文書の管理、公開の抜本的な改革をしなければならない。

毎日新聞 2010年3月10日 2時31分

 

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