Amazon.co.jp:
韓日併合に関しては、「日本に併合されるような事態を招いた」韓国側の要因を問う本や、「英米も容認した合法的な併合」とする意見もありました。ところが、金さんの本を手に取って、まず驚いたのは、巻頭に掲げられた「文明開化に殉じた金玉均と伊藤博文の霊前に捧げる」という献辞です。これは韓国民の民族的アイデンティティの拠りどころといいますか、歴史認識を根底からくつがえすものではないでしょうか?
金完燮:
金玉均と伊藤博文の2人は、民族や国家という範囲を超えて、東アジアの文明開化に努めた革命家だと、私は考えています。とくに伊藤博文は日本人なのに、朝鮮に対する熱い愛情をもっていました。2人とも守旧派テロリストに暗殺された点で共通しています。
今までの韓国の歴史認識では、伊藤を暗殺した安重根のような独立運動家を民族の英雄として崇め、金玉均ら親日派を売国奴、日本の勢力を代表する伊藤博文を侵略者と考えてきたわけです。私の本は、確かにそういう歴史観をくつがえしたものだと思います。
Amazon.co.jp:
その意味で革命的ともいうべき本ですが、これが韓国の人に受け入れらる目算は、はじめからお持ちだったのですか?
金:
結果的に青少年に対する有害図書とされ、店頭におくにはビニール包装しなければならないとか、19歳未満のものには販売できないという制限処置を受けていますが、「発禁処分」になったわけではありません。この本が韓国人に受け入れられるまでには、まだ時間がかかるでしょうが、これが出版されたということは、多くの人が私の考えに同調してくれているという証拠でしょう。
Amazon.co.jp:
金さんご自身、「日本語を話す人間は大嫌いだった」と書かれています。その金さんが韓国の歴史認識の間違い、史実のねじまげに気づかれたきっかけは何だったのですか?
金:
昨年、日本の「新しい歴史教科書」をめぐる騒ぎがあったとき、韓国では反日感情が異常な高まりをみせ、市民の目つきもすっかり変わりました。日本人観光客があまりよくない待遇を受けたという話を聞いたり、反日感情が引き起こした一連の事件を見るにつけ、こういう狂信的なナショナリズムは大変恥ずかしいことだと感じたのです。韓国内に盛り上がるナショナリズムの潮流を見ながら、韓国にもこれに反対する考え方があるということを知らせたいと思い、執筆を始めたのですが、その流れのなかで資料を集めているうちに、新しい認識に達したわけです。
私はこういった分野の専門家ではありませんから、今までの研究結果をまとめて発表したわけではないのです。軽い本を1冊出そうというぐらいの考えで書きはじめ、その過程で韓国の歴史が逆さまになっていることを知りました。ですから、この本は偶然の産物なのです。
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金さんがお調べになった資料も、韓国の歴史家が見てきた資料も同じであるわけですが、にもかかわらず、歴史認識が180度違うのはなぜでしょう?
金:
そこが一番大変な作業だったといえます。資料は集めたものの、大半が嘘の資料でした。ですから、逆にこの裏はどうなっているのか、そこが知りたくなったのです。しかし、たくさんの資料の中から自分の欲しいものを探し出すのに大変苦労しました。
Amazon.co.jp:
この本にも書かれていますが、中曽根内閣の時代に藤尾文部大臣が「韓日併合は韓国側にも責任があった」という発言をしたことで、罷免されています。日本のマスコミもこの発言を「妄言」とする韓国側の論調に合わせて、藤尾文相を一斉に非難しました。日本で一般に行われている歴史認識も韓国の歴史認識と変わらないというわけです。それを「自虐史観」とする人たちが新しい歴史教科書を作ったけれど、これも採用されなかった。このような日本の風土をどう考えられますか?
金:
教科書問題で反日運動が過熱したとき、韓国のマスコミは、日本では右翼が大変な勢力を持っているのだ、日本は再び軍国主義国家になるだろう、みたいなことを書き立てていましたから、私も日本の右翼は強大な力を持っているんだと思っていました。ところが、実際に日本へ来てみますと、韓国でいう右翼に匹敵するものは存在しなかった。
日本に存在しない右翼のことを、韓国のマスコミがこれだけ大げさに報道する現象は、一種のイデオロギー、統治のイデオロギーというか、政治のイデオロギーに精力を使っている証拠ではないか、この点、日本も基本的に同じではないか、と思うのです。実は、韓国にいるときは、私がこういう本を書いたことを日本のマスコミは歓迎してくれるだろうという期待はあったのです。ところが、こちらに来てみて、実際には、この問題は日本でも扱いづらい、報道しにくいテーマであることが分かりました。それでも、少しずつでありますが報道されていますから、今後を期待しているのです。
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藤尾発言について、金さんはまったく賛成というわけではありませんね。日韓併合は「悪いことだった」という前提で「よいこともあった」という藤尾氏の論理の展開を疑問視しておられます。日本への併合は、市民革命と文明開化を追求する愛国者として当然の選択だったというのが、金さんの主張だと思います。日本の統治についても「日本時代は祝福であった」と書かれています。つまり「目的」も「実態」もよかったと言われているのですが、これは従来の併合是認論を越えるもので、非常に革命的だと思うのですが。
金:
今の日本の人たちは、日本統治時代の韓国をよく知らないので、韓国側から「合併時代は辛いものだった」「あれは侵略だった」と非難されると、「私たちは侵略したのだ」「韓国を植民地にして収奪したのだ」となるわけです。でも、これは当時の状況をよく知らない人が、戦後朝鮮半島の権力を握った人たちの考え方をうのみにして言っていることなのです。当時に遡って考えてみると、日本は李朝時代の圧政から朝鮮を解放したのであり、侵略したのではない、と考えるほうがより真実に近いと思えるわけです。
これからは韓国の社会にも、支配者ではなく民衆の目でみた歴史認識というものが定着するだろうし、日本統治時代の民衆の立場で素直にみると、日本は侵略者ではなく解放勢力だったという史実が見えてくると思います。そうなれば韓国人の日本を見る目も根本的に変わるでしょうね。
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この本で金さんは、日本は朝鮮を植民地としてではなく、日本国の一部としてインフラ整備や教育制度の充実を図った、そして、収奪でなく福祉をもたらした、台湾もそうであった、こういった統治形態は明らかに欧米の植民地経営とは違うもので、もし日本が台湾、韓国、満州の統治をあのまま続けていたら、アメリカ、EUブロックと並ぶ東アジア経済共同体なり連邦ができていただろう、という意味のことを言われています。ところが日本は東京裁判で朝鮮、満州、台湾を侵略し、朝鮮民族を奴隷化したことで有罪とされました。金さんのこの考え方、歴史認識からすると、東京裁判は誤りだったということになるのでしょうか?
金:
東京裁判には問題が多かったと思います。戦争は力の対決です。日本に罪があったとすれば、負けたことです。東京裁判は勝ったものが負けたものを裁いたわけで、はじめから公正ではなかった。とくに、東京裁判はニュルンベルクとは違って、白人が黄色人種を裁くものでした。彼らは東アジアの状況を理解しないまま、ヨーロッパのケースに当てはめて判断したために、誤りが多かったと思います。
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教科書問題が契機でこの本を書かれたということは、1年足らずの間に、膨大な資料を分析して既成の史観を書き変えられたわけですが、その集中力もさることながら、日本の神道に対する深い洞察に感銘を受けました。
金: 私は神道についての知識はまったくありませんし、とくに勉強したわけでもありません。現在の韓国はクリスチャンが多く、うちの家族もクリスチャンです。私は以前から、韓国には異民族の宗教が入り込み悪影響を与えているのに、日本にはキリスト教が深く浸透しないのはどうしてか、そのことに関心をもっていました。
私自身10代の後半までクリスチャンでしたが、大学に入ってからは、マルクスの唯物論にひかれました。それでも、自分は本質的に汎神論者だと思っています。万物に魂が宿っているという神道の思想には、個人的に慣れていると言えます。ですから神道については、辞書に書いてあることを見るだけでも、かなり理解できるのです。
宗教に頼って生きていくという考え方は、けっして望ましいものではありませんが、それでもやはり、人間には宗教は必要でしょう。その面で、10年ほど前からでしょうか、神道は宗教として望ましい、理想的な形態のものではないかと考えるようになりました。韓国固有の宗教と共通点があるからかもしれません。シャーマニズム的なもの、アニミズム的なもの、そういうものは人類が古くから持っているものですが、そういう面では共通している。しかし、神道は社会的に望ましい対象を神として特定の場所に祀(まつ)るという点で優れていると思うのです。韓国の儒教は死んだ人すべてを奉ります。しかし神道は死んだ人すべてを奉っているのではないという点で、発展した形態の宗教だと考えられるわけです。
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韓国人と日本人との間には、本来わかり合える伝統的な部分があるということでしょうか。今回のW杯後に、日韓の新聞社が共同で行った世論調査によると、日韓共催のW杯の結果、両国の関係がよくなると答えた人が、韓国側で70%、日本側で60%を超えています。また、共同開催が決まった直後の調査では、日本が好きと答えた韓国人は26%にすぎなかったのに、今回は45%まで上がっています。反日感情はその程度のものだったのか、と思ったりもするわけですが、庶民レベルでは食べ物、習慣、行事など生活感覚にどこか共通のものがあるから、分かり合えるのかもしれない。そんな感じがします。
金:
今の韓国社会は自分たちは独自な国の独自の民族と考えているけれど、実際には、制度、風習、考え方には日本的なものがあります。日韓の間には人的交流も多いので、日本と非常に似ているのです。韓国人の反日感情は本当の日本を知らないからで、1度日本に来て2、3日滞在してみれば変わるのではないでしょうか。そういった意味で希望はあるわけです。知識人、政治家たちの中には反日感情をあおったり、商売にする人がいます。日韓両国はこういった勢力をなくさないと、本当の意味での友好は開けないでしょう。