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携帯電話におけるSIMロック論争 - 松本徹三
2010年03月29日10時00分 / 提供:アゴラ
5) SIMロックが行われている現時点でさえ、「あの手この手を使って販売現場を騙し、殆ど只同然の現金支払いで端末機を入手した犯罪者が、通信料も払わず、割賦代金も踏み倒した上で、SIMロックを外し、国内外でこの端末を売り捌く」というケースが後を絶ちません。これを防止する為に、「ロックを一層強化する」とか、「ロックが外された時点で、その状況を把握して何らかの対応策を講じることを可能にする」などして、犯罪者の意欲を削ぐ為の努力を今後とも継続せねばならぬと考えている矢先に、「そもそもロック自体を外してしまえ」と言われれば、犯罪者に対する障壁を自ら低くして、犯罪を助長する恐れなしとしません。
これだけ申し上げれば、「SIMロック解除を強制する」というアイデア自体が、如何に無謀なものであるかは十分ご理解頂けると思うのですが、にも関わらず、このことが何度も俎上に上ってくるのには、もう一つの理由があると、私は睨んでいます。
それは、恐らくは、「SIMロックに代表されるような日本独自の携帯端末の商慣行が、日本を携帯電話業界をガラパゴス状態にし、日本メーカーがノキアや、サムスン、LG等に伍して世界市場で戦っていけなくしてしまった元凶である」と、どこかの学者先生がどこかでおっしゃられたからでしょう。
しかし、これまた、とんでもなく見当外れな議論です。(ビジネスの現実をよく理解している筈の「当事者である日本の機器メーカー」自身が、まさかそんなことを言っているとは、私にはとても思えません。)
成る程、例えば欧州では、ノキア等の強力なメーカーが、端末機の販売市場において、通信事業者よりも優位に立っています。しかし、それは、前述のような地理的、歴史的背景に加えて、ノキア等のメーカーが自ら努力をしたからであって、法制度的な理由によるものではありません。現実に、サムスンやLGのような韓国メーカーは、地理的、歴史的なハンディキャップにも関わらず、一大決心を持って世界市場に挑戦し、ブランド確立の為に大規模な投資を行い、一気にモトローラとソニー・エリクソンを抜いて、ノキアに肉薄するに至っています。
SIMロックがあろうとなかろうと、通信事業者が次々に新しい機能を要求しようとしまいと、欧州市場も発展途上国市場も日本市場とはもともと相当違うのですから、この様な市場を開拓するには、始めからその覚悟で臨まなければなりません。「日本国内のビジネスで生じた損失を海外市場で穴埋めしなければならない」というのならともかく、国内ビジネスではある程度の利益は出せたのでしょうから、それはプラスにこそなれ、マイナスになっている筈はありません。
そもそもノキアにとっては、小国フィンランドの国内ビジネスなどは何の支えにもなっていないでしょう。HuaweiやZTE等の中国メーカーは、中国での3Gの導入が大幅に遅れたにも関わらず、海外向けには3G端末を積極的に売りにいっており、ある程度の成功も収めています。
それでは、世に言う「ガラパゴス現象」とは何なのでしょうか?
私は、「OS軽視」こそが、日本の携帯産業をガラパゴス状態にした元凶だと思っています。通常なら、求められる機能があのように増え続けていく状況に直面したら、「こうなれば、思い切って、パソコンのように先ずOSを作るべきだ」と考えるべきです。しかし、日本では、誰もそのようなことは考えず、みんなが次々に求められる機能をひたすら手作りで端末機に組み込んでいったのです。
この為、一モデルあたりのソフト開発費は数十億円から百億円にも上り、一モデルで数十万台から百万台程度しか販売量が見込めない日本メーカーにとっては、一台あたりの開発費の負荷は平均して一万円にも上ってしまったのです。これではノキアはおろか、サムスンやLGとも価格競争が出来るわけはありません。
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