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携帯電話におけるSIMロック論争 - 松本徹三
2010年03月29日10時00分 / 提供:アゴラ
そして、その過程において、ユーザーが新しい端末機に乗り換えやすいように、通信事業者が販売店に対して多額の「販売奨励金」というものを支払ってきたことも大きな力になりました。
つまり、通信事業者は、例えばメーカーへの支払いが5万円にも上る携帯端末機を、販売店がユーザーに1万円弱で売れるように、4万円を超えるような「販売奨励金」を出すということです。何故そんなことが出来たかといえば、「ユーザーがその端末機を買ってくれさえすれば、それから毎月5千円程度の通信料を払ってくれることになるので、最長でも8ヶ月程度でモトが取れる」ことを、各通信事業者が知っていたからです。
しかし、この「商慣習」には少し問題もありました。
第一に、この様なことになると、頻繁に端末機を買い換える若いユーザーにとっては有利ですが、長い間同じ端末機を使い続ける一般のユーザーにとっては不利になります。(これらのユーザーは、「そんなことをする位なら、通信料を下げてほしい」と言うでしょう。)
第二に、「認可事業である通信事業の黒字で、端末機の卸売り部門の赤字を埋めるのは、色々な面で不都合である」と、総務省が考えたとしてもおかしくありません。
そして、第三に、新しい端末機を安く手に入れたユーザーが、装着されているその通信事業者のSIMカードを捨ててしまって、これを国内外の誰かに転売してしまったら、通信事業者は大きな損失を蒙ることになります。
第一と第二の問題を憂慮した総務省は、数年前に全通信事業者に対し、「この商習慣を見直すこと。少なくとも販売奨励金を支払わない『より健全な販売方式』も並行して取り入れること」を要請しました。
(ソフトバンクの場合は、この要請を受ける以前に、「より健全な販売方式」と同社が考える方式(「端末機の代金はきちんとユーザーに払って貰うが、これを24ヶ月の割賦にする。それによる毎月の支払い代金の増額をオフセットする為に、月々の通信料金を大幅に値下げする」という方式)を導入していたので、この要請には何の痛痒も感じませんでしたが、ドコモとKDDI(au)の場合は、二方式の併用で、販売現場に少し混乱があったものと思われます。)
しかし、第三の問題に関しては、各通信事業者は始めから対策を考えていました。それは「自らが売る端末機と自らの通信サービスが切り離されないような仕組み」をあらかじめ端末機の中に組み込んでおくことでした。SIMカード等というものが存在しないKDDIの場合は簡単でしたが、欧州のGSMの流れを汲むWCDMA方式を採用したドコモとソフトバンクの場合は、ここで「SIMロック」という方策を考えるしかなかったのです。
さて、この様な状況下で、総務省は、この「SIMロック」というものが、ユーザーの利便性を害しているのではないかという疑いと、この為に日本の端末機がガラパゴス状態になって世界に売れなくなったのではないかという疑いから、「これを禁止する」ことを検討すると言い出しました。
さてさて、長い長い前置きになりましたが、これからが本論です。
もし総務省の言いたいことが、「SIMロックの目的はよく理解したが、ロックのかかっていない端末があってもいいでしょう? 誰かがそういう端末を製造して販売するということになったら、通信事業者はこれを妨害してはいけませんよ」ということであり、具体的には、「自社のネットワークに悪い影響を与えないことが客観的に保証される限りは、この端末機に対して『ロックのかかっていないSIMカード』を供給する等の対応をしなければなりませんよ」ということなら、これは全く問題ありません。前述の如く、これは、そもそも「カーターフォン事件」以来の業界の不文律なのですから、別に法制度を改正しないでも、通信事業者は従うしかないのです。
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