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携帯電話におけるSIMロック論争 - 松本徹三
2010年03月29日10時00分 / 提供:アゴラ
つまり、日本では、当初より、通信事業者が「端末機の卸売り事業」を「併営」したということです。具体的に言えば、「通信事業者がメーカーに端末機を発注し、自らの販売網で通信サービスと一緒に売る」ということが、ユーザーの支持を受けて、一般的になったということです。
これは、法制度でそのように定められているということではありません。携帯通信事業は一定の周波数を使うことを認可された事業者だけが出来ることですが、端末機の製造と販売は、「その端末機がネットワークに悪い影響を与えない」ことが証明さえされれば、もともと誰でもが出来るのです。(この基本的な考え方に道を開いたのは、今から50年以上も前に遡り、アメリカで起こった有名な「カーターフォン事件」に対する判決です。)
現実に、当初は、日本でもメーカーブランドの端末機が家電量販店などで売られたこともあるのですが、通信事業者ブランドの方がユーザーにとって色々な面で魅力があったということで、すぐに姿を消してしまいました。
ところが、欧州では、通信事業者は国毎に違うのに、ノキアやエリクソンは最初からどこに行っても通じるブランドを持っていたので、最近になってボーダフォンやオレンジといった各通信事業者が自社ブランドで追撃しようとしているにも関わらず、未だにメーカーブランドの方が優位です。中国では、通信事業者はもともと端末の販売には関与しておらず、中国全土の販売・サービス網を自ら整備したノキアが、圧倒的な市場シェアを持っています。
さて、携帯電話の歴史をもう少し俯瞰してみましょう。世界中で携帯電話のデジタル化(1Gから2Gへの移行)がはじまった時、欧州は前述のGSM方式、米国はCDMA、TDM、GSMの三方式の並存、日本は独自のPDC方式をそれぞれ採用、CDMAは韓国とアジア、中南米の一部、TDMは中南米の一部に広がりましたが、PDCは日本以外にはどこにも採用されませんでした。
その後米国のTDM方式は姿を消し、CDMAもあまり伸びず、結局2Gの世界ではGSMが世界の多くの国で覇権を握りました。CDMAはもともと2Gと3Gが渾然一体となったシステムでしたが、GSMAは、3Gに移行するに際しては、色々な紆余曲折を経て結局CDMAの技術を採用、WCDMAまたはUMTSと呼ばれる方式となりました。そして、その後、CDMAはEVDO、WCDMAはHSPAと呼ばれる「データに特化した方式」へと移行しました。
SIMカードの装着は、GSMがWCDMAとHSPAに移行しても継続されましたが、CDMAやEVDOでは行われておらず、また国境を頻繁に越えることのない日本の一般のユーザーにとっては、「SIMカードというものは本来入れ替えられるものである」ということすらが、あまり認識はされていません。
3G方式はもともとデータ通信の高速化に向いたものなのですが、当初の看板だったテレビ電話は全くの不発で、欧米では、データ通信といっても当初はSMSと呼ばれる簡易メールぐらいしかアプリが存在しませんでした。この為、ドコモが開発した「iモード」や、シャープとJフォン(現在のソフトバンクの前身の前身)が始めた「写メール」等は、欧米の業界を大いに刺激することになりました。
この様な状態だったので、最近になってアップル社のアイフォンが世界を風靡するまでは、「日本の携帯電話は、その機能の豊富さで世界の水準をはるかに超える」と考えられていました。それは、厳しい競争環境におかれた各通信事業者が、それぞれに色々なアプリを考えてこれが端末機の上で実現されるように各メーカーに要請、(或いは、逆に、メーカーが自分のアイデアを製品の買い手である通信事業者に売り込み、)結果として新製品の開発サイクルが早くなった為です。
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