理学系研究科で理学博士の学位を取得した者は、教育・研究をはじめとする様々な分野で活躍している。教育・研究職を志望する博士の多くは、現在は先ず任期付きの研究職であるポスドク(ポストドクター)に就くことが多い。研究を究めた理学博士は、ポスドクとして知見と人脈を広げながら研究力を磨く。ポスドクは、欧米では博士のキャリアとして一般的なものであるが、日本ではポスドクが研究の最前線で活躍するようになったのはこの10年ほどであるため、世間一般では一時的・不安定な職というイメージが強い。そこで理学系研究科では、学生や博士が自らのキャリアを考えるための基礎的な情報として、理学博士(課程博士)の就職状況調査を行った。
2002-2008年度の7年間に理学博士を取得した者は1182名である。図1は、現在(2009年末)の彼らの就職先を専攻ごとに比で示したもので、最上段が理学系全体である。任期なし研究職が18%(特任助教等をいれて26%)、任期付き研究職(特任助教等とポスドク)が55%、企業・公務員が23%である(企業にも民間の研究職が含まれる)。図2は、博士取得年度ごとに現在の就職先をまとめた。2008年度の博士取得者で任期なしの研究職に就いた者は5%(特任助教等をいれると10%)で、67%は任期付き研究職(特任助教等、ポスドク)である。取得年度とともにその割合は増加し、2002年度取得者(学位取得後7年)の30%が任期なし研究職(特任助教等をいれると40%)に就いているが、なお46%の者が任期付きの特任・ポスドクとして研究に従事している。図3は、現在の就職先ごとに博士取得直後の職の区分(各下段)を示した。ポスドクからポスドクへの移動がもっとも多数で、ポスドクから企業へ就職する者はあまり多くない。
専攻別 現在
図1.理学系全体(最上段)と専攻別にまとめた現在の就職先比率 |
年度別 現在
図2.博士取得年度ごとにまとめた現在の就職先比率 |
図3.学位取得直後(各上段)の就職先ごとにまとめた現在の就職先(各下段) |
凡例 |
以上まとめると、学位取得直後に任期なしの教育・研究職に就く者は5%(特任助教等をいれて10%)で、7割は博士取得後まず特任・ポスドクとして任期付き研究職に就く。企業(研究職も含む)に就職する者は2~3割である。学位取得後7年で3割が任期なし(特任をいれて4割)教育・研究職に就くが、なお3~4割が任期付きの特任・ポスドクとして研究に従事している。
ポスドクが理学博士の重要なキャリアになったのは、1990年代前半の大学院重点化以後のことである。1990年前後は年間100-110名だった博士取得者が、1990年代半ば以降160-180名と増加した(図4)。大学院重点化の理念は、高度な専門職業人を養成し、我が国の研究力を高めるとともに、博士の高い能力を様々な分野で活用することであった。現在、特任・ポスドクは理学博士のもっとも重要なキャリアであり、研究の最前線で活躍している。さらに、大学・研究所の任期なしの職は増えない中で、高位の職(特任教授や研究主幹)も任期つきになり、ポスドクは一時的な職ではなくなっている。一方で、終身の教育・研究職の数が増えない現状では、様々なステージで他の分野へのキャリアへの転身も必要だろう。
図4.理学系研究科博士取得者数 |
理学系研究科は、教育・研究職の拡大と周辺のキャリアの開拓に取り組むとともに、進学を促し、理学博士のキャリアを考える基礎的な情報として、今後もこうした調査を継続し,客観的な情報を公開して行く。
--教務委員会--