トップ :: A 生活必需品 :: A01 農業;林業;畜産;狩猟;捕獲;漁業




【発明の名称】 フグの養殖方法、及びそれを用いたフグの無毒化方法
【発明者】 【氏名】野口 玉雄

【氏名】荒川  修

【氏名】高谷 智裕

【氏名】山口 聖二

【氏名】板谷 國博

【氏名】小川 明秀

【氏名】木梨 雅孝

【氏名】太田 善久

【要約】 【課題】フグを無毒化し得るフグの養殖方法を提供することにある。

【解決手段】本発明のフグの養殖方法は、ヒラムシ、ヒモムシ、ヤムシ、カニ、小型巻き貝、ワレカラ、ヒトデ類、フグ類、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、肉食性巻き貝、カブトガニ、ヤムシなどの底生性生物を遮断した環境下、養殖することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孵化後15週間以内の孵化稚魚を、底生性生物を遮断した環境下、養殖して成長させるフグの養殖方法によりフグを養殖して、実質的に無毒化したフグ。
【請求項2】
当該フグの、肝臓、生殖巣(精巣、卵巣)、その他の内臓からなる群から選択される少なくとも1種の部分が無毒化したことを特徴とする請求項1記載のフグ。
【請求項3】
前記フグの部分が、10MU/g未満の値を有することを特徴とする請求項1又は2項に記載のフグ。
【請求項4】
底生性生物が、フグ毒を生産するバクテリアを含む生物であることを特徴とする請求項1〜3項記載のフグ。
【請求項5】
底生性生物が、ヒラムシ、ヒモムシ、ヤムシ、カニ、小型巻き貝、ワレカラ、ヒトデ類、フグ類、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、肉食性巻き貝、カブトガニ、ヤムシからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4項のいずれか1項に記載のフグ。
【請求項6】
底生性生物の遮断を、囲い養殖法により行なうフグの養殖方法にしたがって、無毒化した請求項1〜5項のいずれか1項に記載のフグ。
【請求項7】
囲い養殖法が、網生け簀養殖、又は陸上養殖である請求項6記載のフグ。
【請求項8】
網生け簀養殖において、海底から網生け簀用の網を離して行なう請求項7記載のフグ。
【請求項9】
海底から10m以上網を離して行なうフグの養殖方法にしたがって、無毒化した請求項8記載のフグ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フグの養殖方法及びそれを用いたフグの無毒化方法に関し、特に、底生性生物を遮断した環境下におけるフグの養殖方法及びそれを用いたフグの無毒化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、フグの養殖方法として、湾を仕切って5月から6月にかけて4千〜4千五百尾の稚魚を仕切った区域内に入れ次の年の10月ころまで育てる方法が知られている。フグの稚魚は体重1〜10g程度であるがわずか1年で300〜400gまでに成長、出荷段階で0.7〜1.3kgまで急成長する。
【0003】
フグはハマチやタイに比べ市場価格が高く、病気に注意すれば、採算性が高い養殖魚といえる。
【0004】
そして、古来より、フグが有毒である事が知られている一方、フグは美味で、昔から人に食され、特に筋肉、肝臓、及び白子が好まれていた。
【0005】
このようなことから、現在では盛んに養殖が行なわれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述の養殖法においては、天然フグと同様に、毒性を有するフグが多数存在していた。特に湾を仕切る粗放的な養殖においては、毒性を有するものが多く存在していたが、一部の生け簀養殖においても毒性を有するものが存在していた。
【0007】
一方、一部の地域においては、伝統食品としてフグ肝が生産されていた事実もあった。これは、同種のフグ間においても、毒性を有するものと有しないものとが存在するという理由からである。したがって、フグの中には、一般に有毒と知られているものであっても無毒化したフグも存在していた。元来有毒のフグがどのような過程で、無毒化されるに至ったのか判明すれば、再び、伝統食品としてフグ肝のみならず、フグが安心して食卓に提供されることとなりうる。
【0008】
しかし、何故にこのような毒を有するフグと毒を有しないフグとが同種のフグ間においてさえ存在するのかについてこれまで詳細な研究調査がなされていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、フグを無毒化し得るフグの養殖方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、発明者らは、長年に渡ってフグ毒を鋭意研究した結果、フグ毒の由来は食物連鎖である事を見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明のフグの養殖方法は、底生性生物を遮断した環境下、養殖することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、底生性生物が、フグ毒を生産するバクテリアを含む生物であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、底生性生物が、ヒラムシ、ヒモムシ、ヤムシ、カニ、小型巻き貝、ワレカラ、ヒトデ類、フグ類、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、肉食性巻き貝、カブトガニ、ヤムシからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、底生性生物の遮断を、囲い養殖法により行なうことを特徴とする。
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、囲い養殖法が、網生け簀養殖、又は陸上養殖であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、網生け簀養殖において、海底から網を離して行なうことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のフグの養殖方法の好ましい実施態様において、海底から10m以上網を離して行なうことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のフグの無毒化方法は、請求項1〜7項記載の養殖方法により養殖することによって、フグを実質的に無毒化することを特徴とする。
【0018】
また、本発明のフグの無毒化方法の好ましい実施態様において、ふ化後15週間以内のフグを養殖することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のフグの無毒化方法の好ましい実施態様において、前記フグの、肝臓、生殖巣(精巣、卵巣)、その他の内臓を無毒化することを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のフグの養殖方法は、底生性生物を遮断した環境下で養殖する。これは、フグ毒の由来は食物連鎖によるものであるとの知見に基づき、フグは、毒を保有している底生性生物を好んで食する事を見出し、これを遮断することにより、フグを無毒化しようとするためである。
【0021】
ここで、底生性生物とは、フグ毒を生産するバクテリアを含む生物であることを意図する。このような生物は通常海底に生息しており、例えば、ヒラムシ、ヒモムシ、ヤムシ、カニ、小型巻き貝、ワレカラ、ヒトデ類、フグ類、ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、肉食性巻き貝、カブトガニ、ヤムシからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。本発明において、底生性生物を遮断して養殖を行なうのは、底生性生物をフグが好んで食することによりフグが毒化することが判明した事による。すなわち、フグの毒は、食物連鎖によるものであり、どのような養殖法によっても、典型的には、例えば、湾を仕切る粗放的な養殖等、海底に生息する底生性生物を遮断せずに行なえば、フグは、底生性生物を好んで食し、次第に内臓等に毒が蓄積していき、毒化すると考えられる。
【0022】
底生性生物の遮断は、囲い養殖により行なうことができる。囲い養殖としては、網生け簀養殖、陸上養殖を挙げることができるが、いずれの方法による場合でも、これらの方法をそのまま用いるのではなく、底生性生物を遮断した環境下で行なう必要がある。底生性生物の遮断の方法の一例を示すと以下の通りとなる。まず、囲い養殖法を例に説明すれば、養殖に用いる網を海底から離す様にする事が必要である。すなわち、毒保有のカニ、ヒトデなどが網に接触しない様にする必要がある。あるいは、接触したとしても網の目を細かくしておく事により、養殖場内に底生性生物が混入しない様にする事が好ましい。
【0023】
海底から網の距離は、好ましくは、海底から10m以上、より好ましくは20m以上である。海底との距離があまりに短いと、粗放的な養殖と同様に、養殖場内に底生性生物が侵入してくる場合もあり、誤って養殖フグがこれらを食するおそれがあるからである。
【0024】
また、網の目の大きさについては、海底からの網の距離を十分とった場合には、養殖フグが逃げない大きさである限り限定されないが、海底からの距離が10m未満の場合、網の目を4mm 〜10mmとするのが好ましい。この程度の網の目であれば、たとえ網の中へ未成熟の底生性生物が侵入したとしても毒性が極めて低いので、後述するフグの無毒化には影響を与えないと考えられるからである。
【0025】
また、底生性生物を遮断する環境を維持するために、一旦、底生性生物を遮断する環境が得られれば、養殖場を固定する必要がある。なぜなら、潮の流れ等により、養殖場が浅瀬に流される場合もあり、この場合、底生性生物に養殖用の網が接触するおそれがあるからである。
【0026】
固定化の方法は特に限定されないが、複数箇所において、例えば、いかだに固定したロープを繋いだアンカーを海底に打ち固定する事ができる。これによって、いかだが流されない様に、ひいては、網が海底に接近しない様にする事ができる。
【0027】
ここで、囲い養殖法の一例を図1を用いて説明する。図1Aは、囲い養殖用の網を斜視図で示したものであり、図中、1はフロート、2は鋼管、3は網である。すなわち、囲い養殖法に用いる装置としては、少なくともフロート、筏、網、及び装置固定用アンカーを備える。フロート1は、発泡スチロール等、網及び鋼管を沈ませないほどの浮力を有するものであれば特に限定されない。筏の材質は特に限定されないが、例えば、鋼管2等のある程度強度を有するものである。網3の材質も特に限定されず例えば、化繊等を挙げることができる。網3の網目は、フグが逃げ出さない程度であれば、特に限定されない。但し、網が海底に十分近い場合、例えば10m以内等では、底生性生物が混入しないように、網目を細かくする必要がある。このような網目は、4〜10mmの範囲である。アンカーは、主として海底から一定の距離を確保するために装置を固定するためのものである。
【0028】
網について、簡単に説明すれば、稚魚サイズが5cm〜12cm(稚魚重量50g)ほどの間では、 網目を、4〜20mmの範囲とするのが好ましい。魚サイズ12cm〜20cm(魚重量50〜200g)ほどの間では、網目を、8〜20mmの範囲とするのが好ましい。魚サイズ20cm〜30cm(魚重量600gまで)ほどの間では、網目を、18〜40mmの範囲とするのが好ましい。魚サイズ30cm〜50cm(魚重量1000〜1500g)ほどの間では、網目を、35〜60mmの範囲とするのが好ましい。このような養殖を、図1Aに示す点線で鋼管を仕切って行なってもよい。すなわち、成長時期に合わせて筏を区分けして成長の異なるフグを同時に養殖しても良い。
【0029】
これに対して、陸上養殖法においては、囲い養殖と異なり、養殖当初に底生性生物を遮断した環境を準備すれば、ほとんどの場合、当該環境を維持する事ができる。したがって、陸上養殖法においては、養殖を開始する時期に、底生性生物が混入している場合は、積極的に除去する必要がある。
【0030】
しかしながら、陸上養殖法においても、底生性生物の卵等が当初から養殖場に混入していれば、次第に底生性生物が成長、増殖するおそれがある。このような場合には、適当な濾過装置を用いて養殖場の海水を濾過して、底生性生物を除去しつつ養殖をすることができる。このような濾過装置は、特別のものを用意する必要は必ずしもなく、底生性生物の卵等が除去できる限り特に限定されない。
【0031】
例えば、図を用いて、本発明における陸上養殖法の一例を示せば以下の通りになる。図4は、取水方法の一例を示す。図4に示す取水装置は、少なくとも、水中ポンプ、濾過機、貯水槽を備える。図4に基づき説明すると、海水21を水中ポンプ20によって貯水槽23まで汲み上げる。この貯水槽23は、より慎重に取水するために設けたものであり、必ず必要なものではなく、したがって、水中ポンプから汲み上げた海水を直接的に濾過機へ導入しても良い。貯水槽23から送水ポンプ22で濾過機24へ送水する。濾過機24において、濾過しつつ、塩素等により殺菌、滅菌処理することができる。これによって、底生性生物を除去することができる。濾過、殺菌された海水は、非常用、補給用等のために貯水槽で一時保存される。なお、濾過、殺菌された海水を直接飼育槽に導入しても良い。
【0032】
図2は、飼育槽及び飼育槽内を循環する海水の様子を示したものである。すなわち陸上養殖装置を説明したものである。陸上養殖装置は、飼育槽、濾過槽、温度調整槽、曝気装置、酸素供給装置を備える。濾過槽は、底生性生物の混入が永続的に保つことをより確実にするため、複数の濾過槽を設けても良い。たとえば、以下では、一次、二次、三次の3段階の濾過槽を用いた場合について説明する。海水の流れに沿って説明すると、飼育槽からポンプ(図示せず)を通じて、一次濾過槽6へ海水を送水する。一次濾過槽6では、主にSS除去を行なう。SSとは、浮遊物質量(Suspended Solids)の略称で、水中に浮遊又は懸濁している直径2mm以下の粒子状物質をいう。これには、粘土鉱物による微粒子、動植物プランクトンやその死骸、下水、工場廃水などに由来する有機物や金属の沈澱物が含まれている。
【0033】
一次濾過槽6で濾過された海水は循環ポンプ7を通して二次濾過槽8へ送水される。二次濾過槽8では海水を電気分解して得られた塩素で殺菌、滅菌する。殺菌、滅菌された海水は、三次濾過槽9へ送られる。三次濾過槽9では、主として、生物による濾過が行われる。すなわち、好気性細菌による濾過を行なう。
【0034】
このようにして濾過された海水は、必要に応じて、温度調整、曝気調整、酸素調整されて、元の飼育槽へ戻る。温度調整は、温度調整槽11で行なうことができ、ここでは、冷凍機10などの温度調整機能を有する器具を備える。この温度調整槽によって、夏場など海水が高温に達することにより、飼育に問題が生じた場合に対処することができる。一般に飼育槽内の海水が25℃以上となると魚に影響を及ぼすので、適宜冷却するのが好ましい。
【0035】
また、曝気は、濃縮酸素を濾過海水に強制的に混入するもので、これによって、酸素を供給する。また、曝気の主たる目的は、窒素ガスや炭酸ガスの放出にある。SSを除去した飼育水を硝化細菌の働きでアンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素に変え水中から放出する。また、飼育魚やろ過システム中の細菌が呼吸することによって水中に排泄する炭酸ガスもこのシステムで大気中に放出する。したがって、以上が順調に進まないと酸素の溶入が困難となる。水中に溶け込む酸素量には限度があり循環システムでは酸素を過飽和に溶け込ませる技術が求められる。
酸素供給においては、大気(空気)中の酸素を濃縮し、循環ろ過システムでクリーニングされた海水に溶入する。エアレーションでは大気の温度が海水に影響を与えるため、酸素濃度を高めるシステムでは曝気は最小限に留めることが望ましい。濃縮酸素の代わりに、液体酸素(純酸素)を溶入してもよい。
なお、排水処理は、SS除去後、生物濾過槽を経由して塩素で滅菌して行なう。
【0036】
このように、まず、取水処理時に海水を殺菌、滅菌処理し、さらに、飼育時においても海水を循環させて殺菌、滅菌処理することにより、底生性生物の卵、幼生等が海水に混入されていたとしても、未然に飼育槽から遮断することが可能となる。
【0037】
なお、その他の養殖法に関しては、通常の養殖法に従う。例えば、フグは雑食であるので、餌として特に限定されることはないが、通常の餌は、例えば、発酵魚粉、市販魚粉餌料、アジ、サバ、アミ等の生餌等である。本発明においては、上述の底生性生物を遮断した環境下、これらの通常の餌をフグに与えることができる。
【0038】
次に、本発明のフグの無毒化方法について説明する。本発明のフグの無毒化方法においては、上述した本発明の養殖方法により養殖することによって、フグを実質的に無毒化する。
【0039】
ここで、実質的に無毒化とは、人体に害を及ぼすおそれがない10MU/g未満をいう。具体的な養殖方法については、上述の説明を本発明の無毒化方法にそのまま引用する事ができる。
【0040】
また、ふ化後15週間以内のフグを前述の本発明のフグの養殖法を用いて養殖することにより、実質的に無毒化することができる。ふ化後15週間以内のものであれば、あまり成長していないので、フグが元来保有する毒量も少なく、かかる段階のフグを上述の養殖法により養殖すれば、フグの無毒化を達成できる。
【0041】
なお、ある程度成長したフグの場合、天然の有毒魚であれ、毒餌を摂取し毒化した養殖魚であれ、殆ど毒が抜ける事がなく、1〜3年の間毒を保持しつづける傾向がある。この観点から、ある程度成長したフグに関しては、十分長い間、上記本発明の養殖法で養殖する必要がある。
【0042】
また、本発明の好ましい実施態様において、前記フグの、肝臓、生殖巣(精巣、卵巣)、その他の内臓を無毒化する。これらは、フグ毒が、食物連鎖によるものであるとの知見に基づき、上述の底生性生物を遮断した環境下で行なうことにより、毒の由来を絶つことによる結果、フグが無毒化することを見出したことによるものである。
【0043】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈されることを意図するものではない。
【0044】
実施例1
体重3kgの雌の天然魚及び養殖魚から採卵し、卵に養殖の雄親の精子をかけて人工授精させ、次いでふ化させて稚魚を得た。孵化稚魚を陸上で10〜11週位まで飼育し、人口餌料やミンチ肉を与えて飼育できるようになった後、屋外施設に収容し、その約9〜11日後海面いけすにうつした。これは、フグはタイやヒラメに比べて体形が水流を受けやすいので、水質、水流のコントロールが飼育し易い施設で飼育するのが好ましいからである。特に、海面いけすでは波や風の影響を受けやすく、稚魚がいけす網ですれるおそれもある。
このように、稚魚を室内で数週間程度アルテミア、ミジンコなどの飼料で飼育し、その後囲い養殖用の種苗に用いた。
【0045】
網生け簀養殖用の概念図を図1に示す。図1A中、1はフロート、2は鋼管(60mm)、3は網である。フロートとしては、発泡スチロールを用いた。網3としては、縦10m×横10m×深さ4mのものを用いた。実際に、深さ4mの網を海底から10m以上離し、底生性生物が接触しない様に十分注意した。
【0046】
稚魚のサイズ12cm以下までは、図1に示す筏を4分割して、4〜10mmの網を用いて、5〜10週間の間養殖した。その後は、8〜37mmの網に稚魚を移し、6〜14ヵ月の間養殖した。養殖中は、1日に2〜5回、イワシ、サバ、アジなどの市販の魚粉餌料を与え、1〜3年間飼育した。
【0047】
最終的に、養殖したフグの毒性を検査した。毒性の検査に用いたフグは、全部で2,295尾であった。このうち、2,245尾は肝臓、25尾は卵巣、残り25尾は筋肉、肝臓、皮膚、生殖巣及びその他の内臓について検査した。この結果、すべてのトラフグのこれらの部位について毒性値は、いずれも2MU/g未満であり、非常に安全な値が得られた。
【0048】
実施例2
実施例1と同様に、4週間程飼育した稚魚を用いて、今度は、陸上養殖方式によって、養殖を行なった。
【0049】
図2は、飼育用の海水を殺菌濾過しながら行なう方法の一例を示す。図3は、排水処理のフローを示す。
【0050】
陸上養殖方式では、100トン水槽(直径10m)の底に砂を敷詰め、海水を循環させて養殖を行なった。取水は海面養殖場から1km近く離れた場所で水深3m程の中層からポンプアップすることにより、図4に示すようなシステムを通じて行なった。
【0051】
これを300m程離れた養殖場の高架貯水タンク(100トン)に濾過機を通して一時貯水した。この海水は飼育槽の補充用と緊急用としてストックし、逆洗や機材の洗浄水は水道水を使用した。
【0052】
飼育槽の海水は蒸発分と餌の脂肪分を表面から取り除く分(飼育水の5〜10%/日)を除きSS除去、生物濾過、酸素溶入をし循環再利用した。図2に示すシステムを用いて、海水を循環させつつフグの飼育を行なった。一次濾過槽では、主として、SS除去し、二次濾過槽では、海水を電気分解して得た塩素で殺菌、滅菌し、三次濾過槽では、生物濾過(好気性細菌による濾過)を行なった。なお、必要に応じて、曝気装置により、濾過海水に濃縮酸素を強制的に溶入し(純酸素を利用する装置もある)、また、温度調整槽(冷凍機)により、温度調整を行なった。飼育魚に問題が起きるのは主として高水温なので最高水温を26℃に押える事を目的に使用した。 排水処理はSS除去後、生物濾過槽を経由して塩素で滅菌して行なった。
【0053】
このような飼育槽内で、1日に2回〜5回イワシ、サバ、アジや市販の魚粉飼料を与えることにより、1〜3年間飼育した。
【0054】
このような飼育方法によって、飼育したトラフグ114尾の肝臓、精巣、卵巣、その他の内臓の毒性試験を実施例1と同様に行なった結果、すべてのトラフグの各部位における毒性値は、いずれも2MU/g未満であり、非常に安全な値が得られた。
【0055】
【発明の効果】
本発明のフグの養殖方法は、フグを実質的に無毒化することができるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】囲い養殖用の網の一例を斜視図で示す。
【図2】飼育用の海水を殺菌濾過しながら行なう方法の一例を示す。
【図3】排水処理のフローの一例を示す。
【図4】取水方法の一例を示す。
【符号の説明】
1 フロート
2 鋼管
3 網
4 ポンプ
5 飼育槽
6 一次濾過槽
7 循環ポンプ
8 二次濾過槽
9 三次濾過槽
10 冷凍機
11 温度調製槽
12 曝気装置
13 酸素供給装置
14 洗浄水
15 殺菌水
16 排水調整槽
17 薬液タンク
18 薬液ポンプ
19 側溝
20 水中ポンプ
21 海
22 送水ポンプ
23 貯水槽
24 濾過機
25 機械室
【出願人】 【識別番号】502218433
【氏名又は名称】野口 玉雄
【識別番号】502217920
【氏名又は名称】荒川  修
【識別番号】502218444
【氏名又は名称】高谷 智裕
【識別番号】501110134
【氏名又は名称】株式会社関門海
【識別番号】501478481
【氏名又は名称】鷹島阿翁漁業協同組合
【識別番号】502218466
【氏名又は名称】小川水産有限会社
【識別番号】502218477
【氏名又は名称】木梨ふぐ九州店株式会社
【識別番号】596162957
【氏名又は名称】有限会社萬坊
【出願日】 平成15年5月14日(2003.5.14)
【代理人】 【識別番号】100072051
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 興作

【公開番号】 特開2004−16234(P2004−16234A)
【公開日】 平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願番号】 特願2003−135773(P2003−135773)