牧太郎の大きな声では言えないが…

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牧太郎の大きな声では言えないが…:健康とカネ

 お恥ずかしいことだが、妙齢のご婦人と“路チュー”した67歳の国家公安委員長殿に、ちょっぴり嫉妬(しっと)してしまった。

 「週に1回、掃除に来てもらっている」というが、彼女が議員宿舎に現れるのは深夜。察するところ、部屋の掃除ではなく、元気ハツラツの大臣閣下との“お付き合い”にはせ参じていたのだろう。

 お仕事のなかみはともかくとして、大臣は分刻みのスケジュール。週末は選挙区を飛び回る。そして合間合間に“浮名”を流す。その「元気」の元は何なのか?

 失礼だが、特別、若い女性から「思い」を寄せられるようなタイプとも思えない。「おおらかさ」が魅力なのかもしれないが……ただ言えることは、彼に「経済力」があるという事実である。カラオケに行くにも、タクシーに乗るにも「6年間くらいのお付き合い」にはカネがいる。「元気」にはカネがいる。

 そう考えると、嫉妬は「健康とカネ」という重要課題にぶつかってしまう。

 2年ほど前、堺市北区の某総合病院の職員が、入院していた(大臣閣下より年下の)63歳の男性患者を約10キロ離れた公園に放置する事件が起こった。入院費が払えないという理由。ここ数年、ロサンゼルスで多発している“ホームレス・ダンピング事件”と同じ構図だ。ショックだった。

 いま、日本は医療貧乏。<医業収入が減る→赤字幅膨張→人件費削減→医師が辞める→病院倒産>のデフレスパイラルは少々の診療報酬改定では解消できない。患者は病院の倒産騒ぎで、まともな医療を受けられず路頭に迷う。カネが無いと死ぬ時代がそこまで来ている。

 逆に、カネがあれば「健康」は買える。点滴1回1万円、200万円の人間ドック、病院内エステも繁盛している。アメリカでは医療が「永遠の寿命の域」に達するまで冷凍人間として再生を待つ人が400人以上もいるという(アリゾナ州のアルコー財団の場合、冷凍保存料12万ドル)。カネで寿命を買う。この元気格差! この医療格差! 行き着くところは寿命格差?

 「政治とカネ」より重要課題は「健康とカネ」ではないのか?

 「医療の弱肉強食時代」を予感すると、心ならずも「大臣の元気」に嫉妬してしまうのだ。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年3月30日 東京夕刊

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