きょうの社説 2010年3月30日

◎工芸トリエンナーレ 金沢から広げたい「技」の美
 5月8日から開催される金沢市の金沢・世界工芸トリエンナーレを、「技」の美の創造 拠点としての金沢を広く発信する舞台にしたい。これまでの隔年開催から、より希少性の高い3年に一度の開催となるだけに、初回のインパクトの大きさが、今後の継続的な開催へのカギを握るだろう。金沢のお家芸である漆芸や陶芸をはじめ、世界各地の作品と作家が集い、工芸の明日を探る一期一会の機会にしたい。

 折しもメーン会場の金沢21世紀美術館の設計者である妹島和世氏と西沢立衛氏が、建 築学界のノーベル賞と言われるプリツカー賞に決まった。同美術館自体も2004年のベネチアビエンナーレ国際建築展で「金獅子賞」を受賞した両氏の代表作であり、世界の工芸の現在を飾る「器」としての話題性は申し分あるまい。

 期間中、同美術館では、パリのルーブル美術館との初の合同企画展も開催される予定で あり、さらに日仏自治体会議の開催とも重なって、海外からの来場者が多くなると予想される。世界的評価の高い美術館への関心の高さも取り込んだ濃厚な芸術空間を醸成しながら、第1回にふさわしい充実した内容にしたい。

 金沢・世界工芸トリエンナーレは、1995年に世界工芸都市宣言をしてから隔年開催 されてきた「世界工芸都市会議・金沢」と「世界工芸コンペティション・金沢」を統合して開かれる。地元と海外作家の多様な作品群が展示され、シンポジウムも開催される。

 今回は工芸の源流に共通点の多い東アジアを中心に、建築やアートの作品も多数寄せら れる予定で、伝統を土台にしながら、現代空間の中でも存在感が際立つ切れ味鋭い作品群に期待が高まる。トリエンナーレの舞台は、こうした未来志向の作品を許容する金沢の懐の深さ、工芸都市の力量を発信する得難い機会となるだろう。

 これまでは、工芸の伝統を超えた抽象性の高い作品が多かったこともあって、地元愛好 者には今ひとつ難解なイメージもあった。それだけに、会期中は、一般も参加できる斬新なワークショップの場を設けてもいいのではないか。

◎普天間基地移設 「現状維持」なら責任重大
 迷走を続ける米軍普天間飛行場移設問題で、鳩山政権が示す見通しの政府案は、実現性 に乏しく、どう転んでも普天間基地を相当長い期間、継続使用せざるを得ない内容である。特に政府案が米側や地元沖縄の反対で合意に至らなかった場合、軍用機が市街地をかすめて飛ぶ普天間基地の現状が長期固定化されるのは避けられないのではないか。

 自民党政権下で、9分9厘まで固まっていたキャンプ・シュワブ沿岸部案をいとも無造 作にご破算にして、結局は普天間基地の「現状維持」で終わるとしたら、沖縄にとっても日米双方にとっても大きな損失だ。特に成算もなしに「最低でも県外」と訴えてきた鳩山首相の責任は重大である。

 政府は名護市辺野古のキャンプ・シュワブの陸上部にヘリコプター離着陸帯(ヘリパッ ド)を建設し、最終的には米軍ホワイトビーチ(うるま市)沖を埋め立てるか、鹿児島県・徳之島へ移転する二段構えの案を模索している。シュワブ陸上部は、あくまで暫定の形にして、ヘリ部隊の訓練は極力、県外移転を目指す方向という。政府は普天間の機能の多くを沖縄県外に移すことで、沖縄の負担は減ると言いたいのだろう。

 だが、そんなつじつま合わせの手法で、国民の理解が得られるとは思えない。たとえば 、シュワブ沿岸部を埋め立てるのはだめでも、ホワイトビーチ沖の埋め立てならよいと、どう説明するのか。政府案は「県外移設」が机上の空論にすぎなかった現実を覆い隠し、自分たちの体面を取り繕うためにひねり出した案だと、国民に見透かされている。

 有力視されていたシュワブ陸上部に1500メートル級滑走路を建設する案が消え、6 00メートルのヘリパッドに代わった理由もよく分からない。移転先をシュワブ陸上部だけで完結できる同案は、手持ちの案では最も現実的であるように思える。シュワブ陸上部だけで終わってしまうと、「県外移設」の約束が果たせなくなるからだとは思いたくないが、自分たちのメンツを優先させるための苦しまぎれの案だとしたら極めて罪深い。