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六ヶ所再処理工場営業運転の危険(6)地震も危ない 最新の科学で海底活断層を調べあげる

桐生広人2008/04/27
再処理工場では、高レベルの放射性物質が硝酸溶液化され、その溶液が繋がった幾つもの建物の間を流れていく。地震で建屋とのつなぎ目が切れたりすると、建物をすごく立派に作ってあってもつなぎ目のところから漏れ出したりして大変なことになる。そして六ヶ所再処理工場の近くにも活断層がある。
日本 原発 防災・復興
(前回記事:(5)深刻な放射能汚染を憂慮する医師たち

 六ヶ所村の核燃料サイクル施設などに関する行政処分取消訴訟の弁護団の一員である海渡雄一・弁護士は、裁判で争われている核施設の地震災害評価に関する安全審査などの問題について報告と情報提供を行なった(シンポジウム「六ヶ所村再処理工場の危険性を問う!」)。

活発になり始めた日本付近の地震源 
 日本に原発が建設され始めた1960年代から70年代は、地震列島においても例外的に大きな地震が少なかった時期だった。したがって、その安全審査において地震の危険性が過小評価され、原子力訴訟では裁判所は一貫して地震に関する議論を認めなかった。ところが1995年の阪神淡路地震の後に地震の過小評価を見直す動きが起こり、新しい耐震設計審査指針が制定され、志賀原発の運転差し止め判決では旧指針の問題点が認定され、原発の運転差し止めが認められた。(関連記事)

 しかし、東海地震が国の想定を上回る可能性があるにもかかわらず、浜岡原発に関する裁判では旧指針による安全審査で安全性は確保されているという時代錯誤的な判決に、地震学者の中からも驚きと非難の声が上がっている。この議論は、設計許可時の想定を超える地震が発生する可能性がある今の六ヶ所再処理工場とも関連がある、と海渡弁護士は述べた(今回のシンポジウムで海渡弁護士は、中越沖地震と浜岡原発に関する地震についても話されたが、ここでは六ヶ所再処理工場にかかわる下北半島海底断層の話を主に取り上げる)。(関連記事)

六ヶ所再処理工場営業運転の危険(6)地震も危ない 最新の科学で海底活断層を調べあげる | 原子炉の下では、制御棒の駆動系などが林のように並んでいる。ここが地震で突き上げられると、外れてしまう危険がある。制御棒が外れると、原子炉は制御できなくなる(シンポジウムの資料より)
原子炉の下では、制御棒の駆動系などが林のように並んでいる。ここが地震で突き上げられると、外れてしまう危険がある。制御棒が外れると、原子炉は制御できなくなる(シンポジウムの資料より)
 再処理工場では、高レベルの放射性物質が硝酸溶液化され、その溶液が繋がった幾つもの建物の間を流れていく。ですから地震で建屋とのつなぎ目が切れたりすると、建物をすごく立派に作ってあってもつなぎ目のところから漏れ出したりして大変なことになる。そこが個体(の核燃料)の原発よりはるかに危険である。

六ヶ所再処理工場営業運転の危険(6)地震も危ない 最新の科学で海底活断層を調べあげる | 東北地方では、太平洋プレートが陸域のオホーツクプレートの下に潜り込んだ状態にある。再処理工場の直下にこの2つののプレートがぶつかる生きた境界面があり地震の巣を成している。下北半島の東を北に伸びる海底の暗い部分が海底断層と見られる(シンポジウムの資料をもとに、筆者がグ−グルアースより作成/画面を撮影)
東北地方では、太平洋プレートが陸域のオホーツクプレートの下に潜り込んだ状態にある。再処理工場の直下にこの2つののプレートがぶつかる生きた境界面があり地震の巣を成している。下北半島の東を北に伸びる海底の暗い部分が海底断層と見られる(シンポジウムの資料をもとに、筆者がグ−グルアースより作成/画面を撮影)
下北半島東の海底は断層の崖っぷち
 再処理工場の下には陸域とのプレートの境界面として海域のプレートが層をなして存在しており、この付近の海域の比較的近い場所で地震が起きる可能性がある。しかも、下北半島の東には南北に84kmの長さの活断層があリ、この海底活断層が動いたりすると大変なことになる。

 米倉伸之先生(東大教授・当時)が、1997年に青森県の「原子力施設周辺の地質・地盤に係る安全性チェック検討会」に出席し、その海底活断層の活動性について証言している。「下北半島の海底の東側は大陸棚の淵でまさしく崖をなし、高さ数100mの崖が連なっている。この構造を作ったのが断層で、地形を見ただけでも活動していないなどとはおよそ考えられない変動地形だ」と米倉教授は言っていたという。教授のお弟子さんも、音波探査記録からも海底変形が一部に認められ最終氷期以降(約2万年前)も活動しているという。御用学者が作った本でもその活動性を肯定している。
 
国や県は断層の活動性を否定
 しかし、国も県もこの断層の活動性については今もって否定しており、ちょっと信じられないがそれが実態だ、と海渡弁護士は言う。活動性を否定する安全審査の論拠は幾つもあるが、観測データの評価方法の進歩や正しい研究をめざす科学者たちの出現で、裁判の立証に役立つ研究事例が増えてきたともいう。

 その1つに、再処理工場の1〜2km先に並んでいる磁気異常の列が原燃が作った最新のレポートに載っていることがわかった。専門家は「磁気異常があるところは非常に強い活動性がある可能性が高い。それを伸ばした先が海底活断層にぶつかることから、活断層の活動が陸に近づいてきている可能性があることがわかってきた。ここが今後の裁判の大きな争点になるだろう」という。

六ヶ所再処理工場営業運転の危険(6)地震も危ない 最新の科学で海底活断層を調べあげる | グーグルアースで見た日本の東北部の地震源(画面を撮影)。筆者作成の原図は、ログインして丸印をクリックすると地震の規模や発生日時がわかるようになっている
グーグルアースで見た日本の東北部の地震源(画面を撮影)。筆者作成の原図は、ログインして丸印をクリックすると地震の規模や発生日時がわかるようになっている
原発近くの断層を徹底的に調べあげる
 裁判を始めて20年以上経つが、最初からこの海底活断層は大きな争点で、ウラン濃縮の事件と再処理工場経営の事件でも主張してきた。しかし、判決では「否定しないが明らかな活断層とまでは言えない」などと曖昧で、わけのわからない論理で負け続けてきた。

 その理由は、証言台に立ってもいいという科学者がいなかったからだ。最後の頼みは米倉先生だったが亡くなってしまわれ、展望を失っていたこともあった。しかし、ここにきて活断層の論争がある島根原発(中国電力・松江市)や中越沖地震があり、そういうところで変動地形学を専門に研究する大変強力な科学者たちが現れ、日本中の原発近くの断層を徹底的に調べあげ、国のうそを暴こうとする活動を始められた。こうした科学者にお願いして六ヶ所の問題を取り上げて検討していただけるようになり、これらの論点は裁判の帰趨を決する本当に重要な論点になっていくだろうと思う。――海渡弁護士は、このように展望を語った。


つづく(次回は、高レベル廃棄物の異常なまでの危険を取り上げる予定です)

六ヶ所再処理工場営業運転の危険(6)地震も危ない 最新の科学で海底活断層を調べあげる | 海渡雄一弁護士(クリックすると大きくなります)
海渡雄一弁護士(クリックすると大きくなります)
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特集:原発を考える
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関連サイト
全国保険医団体連合会(保団連)
核戦争防止国際医師の会(IPPNW)
柏崎刈羽原発 東電訴訟、住民側上申書提出
再処理、本格操業7月以降 不具合で来月完工困難に(読売新聞)
核燃料再処理(デイリー東北)

ストップロッカショ
再処理・プルサーマルをめぐる動き(福島老朽原発を考える会)
美浜の会(美浜・高浜・大飯原発に反対する大阪の会)
核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会
核燃サイクル阻止 1万人訴訟原告団

原子力資料情報室
グリーンピース・ジャパン
プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワーク
柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会

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