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社説

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普天間移設案―負担軽減の実を見せよ

 鳩山政権が検討してきた米海兵隊普天間飛行場の移設案の輪郭が見えてきた。今週の日米間の閣僚協議をへて、日本政府案にまとめあげようということのようだ。

 鳩山由紀夫首相が国内外に宣言した解決期限の5月末までもう2カ月しかない。「最低でも県外」を訴えて政権に就いて半年。なのに、どうだろう。今の案は沖縄の負担軽減に確かな展望を開くどころか、「県内たらい回し」の色彩が濃い内容にしか見えない。

 名護市のキャンプ・シュワブ陸上部へのヘリポート新設は、既存の施設内への建設とはいえ、自民党政権時代の日米合意よりも危険や騒音が増す可能性がある。ホワイトビーチ沖を埋め立てて大規模な人工島を造る案も、環境問題などを乗り越える必要があり、すぐに実現する見通しはない。

 普天間が担っている訓練などの機能を本土の施設へも分散するのは大切な選択肢だが、検討中の案の程度では、首相が先週の記者会見で表明した「極力、県外に」にあたるだろうか。

 現実性はどうだろう。仮に、米政府が鳩山政権との関係を考慮して分散移設を嫌う米軍当局を抑えたとしても、肝心の沖縄は県も関係自治体も反対の声を強めている。来月には「県外」を求める県民大会が予定される。

 このままでは、案が浮かんでは実現しない過去を繰り返すことになりかねない。現実性が疑われる案では、米政府もまともに対応できないだろう。

 朝日新聞の最近の世論調査では県内移設に反対が39%で賛成の28%を上回ったが、回答保留が33%もあった。抑止力と沖縄の負担の間で国民世論も迷っているように見える。

 いま直ちに県外に移設先を見つけるのが難しいのは、その通りだ。場合によっては、暫定的に一部の負担を県内で引き続き担ってもらうことも、万やむを得ないシナリオとしてはありうるだろう。ただ、それには、負担軽減の具体策に基づく首相自身のよほど誠実で丁寧な説得が要る。

 この問題は、首相のあまりに拙劣な手法や外交感覚の乏しさもあってこじれきってしまった。しかし、安保の負担を沖縄だけでなく国民全体で分かち合おうという提起は間違っていない。

 必要なのは、本格化する米政府との交渉や地元との協議の中でそうした方向に知恵を絞り、実をあげることだ。

 より多くを本土が分担する。大規模な恒久施設の建設は、極力避ける。県内の負担が当面一部残る場合でも、将来の縮減の展望を示す。日米合意の海兵隊グアム移転のロードマップへの影響を可能な限り避けることも焦点だ。

 首相に残された時間は少ない。もう迷走している場合ではない。政府案作り、対米交渉の中で、そうした方向での思い切った踏ん張りを求めたい。

ギリシャ支援―ユーロ進化への転機に

 予告された破局が、だれにも阻めないまま本当に起きてしまう。

 ギリシャ古典悲劇を地で行くように財政危機に陥った現代のギリシャを支援するため、欧州連合(EU)が動いた。それはEUが自らの「予告された破局」を回避するためでもある。

 ギリシャは、EUの単一通貨ユーロ圏のメンバー16カ国の一つだ。この問題を放置すればユーロの信認が揺らぎ、財政赤字をため込んだ他のEU諸国も危機に直面する。

 EUの首脳たちは、ユーロ圏が国際通貨基金(IMF)と連携し、必要な時にギリシャに融資する方針を決めた。同国は財政赤字の削減に努め、EUやIMFがその中身を吟味する。

 合意に達するまでにはEUを二分する激論が交わされた。

 ユーロ加盟国は金融政策さえ共にしている。その一員を支援するのは当然だ。フランスなどはこう主張した。

 加盟各国は、まず財政規律を守るべきだ。放漫運営をした国は助けたくない。ドイツなどはこう反論した。

 結局、ギリシャの財政赤字削減の監督役としてIMFを招くことで決着した。ユーロ圏を「一つの国」のように見る人たちにとって外から力を借りるのは、忸怩(じくじ)たる思いではないか。

 しかし、EUの経済は一体化しても、人々の欧州市民としての連帯意識が同じ水準にまで成熟しているわけではない。その溝を埋めるためにIMFという国際機関の力を借りて軋轢(あつれき)を和らげる必要があったのだろう。

 ただ、支援方針は決まっても、ユーロの試練はまだ続く。これから大量の国債償還を迫られるギリシャへの市場の懸念は依然として消えていない。財政赤字削減のためギリシャは痛みを伴う改革を実行しなければならない。

 「政府なき通貨」であるユーロは自らを支える強固な財政基盤を持っていない。その制約の下で危機の再発を防ぐには、加盟国の財政を監視するEUが、放漫財政を正すための権限と能力を強める必要がある。IMFの欧州版ともいえる欧州通貨基金の設立議論の行方にも注目したい。

 ドルに対抗する有力通貨に育ったユーロは、進化を続ける欧州統合の最大の成果であるが、危機が問いかけているのは、一体化した経済に政治が追いついていないEUの構造的な問題だ。このまま立ちすくむのではなく、ユーロを進化させる転機にしてほしい。

 財政破綻(はたん)の回避はギリシャやEUだけの課題ではない。アジアでも金融危機の体験を踏まえて、危機回避の仕組みを整えようとの機運が高まっている。EUの経験は参考になる。

 巨額の財政赤字を抱え込んでいる日本こそ「予告された破局」に最も近づいている国である。そのこともあらためて銘記しておきたい。

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