三上英次

 前回記事:現職警察官らによる“犯罪”~千葉県警の場合~(1)
 http://www.janjannews.jp/archives/2923653.html
 
 私服警察官らによる路上での職務質問のあと、突然4名の警察官が覆面パトカーで玄関先に乗りつけ、呼び鈴を鳴らした。そのあと、内容の不明な、複数の書面に署名させられ、自宅から自転車を持って行かれたAさん――。しかし、災難は、まだ始まったばかりであった。
 
 後日、職務質問をしたN巡査部長から電話で、警察署への呼び出しを受けたAさんは、その時の心境をこう語ってくれた。
 
 「最初の声かけ(職務質問)から自転車の持ち去りまで、あれよあれよという間のできごとでした。『勝手に自転車に乗っていました』という文面を、ちらりと盗み見する形で読んで、私はすべての事情を瞬時に悟(さと)りました。警察官らは、私のことを刑法で言う占有離脱物横領罪(せんゆうりだつぶつ・おうりょうざい)ではめようとしていたのです。」
 
 人の物を盗んで持っていれば窃盗罪になるが、例えば、持ち主不明のものをそのまま自分で使っているような場合、持ち主の手を離れたもの〔=占有離脱物〕の、勝手な使用〔=横領〕ということで、占有離脱物横領罪(刑法254条)に問われることがある。けれども、誰かが置いていった網棚の新聞紙も、手にとって持ち去れば「占有離脱物横領」と言えなくもないから、法律の適用に当たっては、慎重さが求められる。例えば、ある物が、「占有離脱物」なのか、持ち主の無い「無主物」(例 廃棄されたもの)なのかは、具体的な事案ごとの検討が必要なはずだ。
 
 「4名の警察官が立ち去ってから、出頭要請を受けて私が警察署に出向くまでに、私は自分の置かれた立場を整理し、自分や家族のことを守らないといけないと思いました。同時に、これはかなりやっかいな問題になるだろうということを覚悟しました」
 
 やっかいな問題――というのは、相手が町の10代のヤンキー、あるいは剃り込みを入れたチンピラやくざではなく、現職の警察官であるということだけではなかった。
 
 「私がこの問題で最も心配したのは、彼ら警察官らが、非常に慣れていたことです。考えてもみて下さい。私は、世間的に言えば、40代の、いちおう良識ある市民だと思います。私服の警察官に声をかけられた時、お互いに顔を見合わせて話をしています。相手(N巡査部長ら)は、私が成人男性であることを知って、声をかけている、つまり、私のような成人男性でも、連絡先を聞いて、覆面パトカーに4人で乗りつけて多少プレッシャーをかければ、自転車でも何でも勝手に警察署に持って帰れると彼らは考えていたわけです。これは恐ろしいことだと思いませんか。私は、去っていく彼らを見て、『あぁ、彼らはこれまでにも相当数、似たようなことを繰り返して来たな。これはやっかいなことになるぞ』と直感しました。自分自身にこれからふりかかるであろう災厄と言うよりも、彼らが今まで平然と繰り返して来たであろう、一連のおこないについて思いを致していたのです」
 
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千葉県警新庁舎。この“事件”の中心人物、N巡査部長は間もなく他の警察署に異動になる。Aさんは、その警察署までN巡査部長を追いかけ、真実を明らかにするよう求める。ところが、逆にその行動で、“事件”は思わぬ展開を見せる(詳細次回)。〔撮影・三上英次 以下同じ〕


 「自分たちの泊まり明けの日がいい」というN巡査部長、S巡査長の希望に合わせて、Aさんは、後日、家族(妻)を伴って警察署に出向いた。家族同伴というのは、N巡査部長らの要望であり、警察署に向かうAさんの鞄には、警察署長宛ての手紙も入っていた。見知らぬ市民に声をかけ、そのまま覆面パトカーで乗りつけて自転車を“押収”していくような荒っぽい手法が許されるはずもなかった。ましてや、ちらりと見た「私は勝手に自転車を乗り回していました」という文言の書かれた用紙は何なのか――Aさんは、N巡査部長らの勤務実態について上司である警察署長にも相談し、きちんとした説明を聞くつもりだった。その前に、自転車にまつわる事情について、よく説明したいという思いもAさんは持っていたという。

 警察署に着いて、N巡査部長、S巡査長、それにAさん、そしてAさんの家族(妻)の4人が机に向かい合って座ると、N巡査部長は、次のように切り出した。
 
 「それじゃあ…、まず奥さん、あなたにうかがいますが、あなたの横にいる人は、本当にあなたのご主人ですか。ニセ者ではありませんね、そのことをちゃんと証言できるのなら、ここにサインして下さい」
 
 それは、あたかも裁判所での証人尋問が始まる前に、当事者が書面にサインするような雰囲気だったという。家族がごく形式的にサインして、そのあとに事情が聞かれる――そう思って、Aさんの家族は言われた通りに、所定の枠内にサインをし、印鑑を押した。
 
 サインし終わると、N巡査部長はAさんの家族に向かって「はい、いいですよ…、奥さんはこれで終わりです。あとはご主人から話を聞きますから」と言って家族は帰し、その後、2対1でAさんのほうを向き直った。
 
 「じゃあ、今度はご主人ね…、話を聞きますよ。まず、これは捜査資料ですから、上半分は見せられませんが、下の…ここにね…、そう…ここに署名して、それから、印鑑も押してもらえますか」
 
 N巡査部長は、Aさんの家族に指示したのと同じような軽い口調で、いかにも宅配便のドライバーが玄関口で認印をもらうように、署名を求めて来たという。但し、そう言うN巡査部長の片手と上半身は、書類の上半分を不自然に覆い隠し、用紙の署名欄しかAさんには見えなかったという。もちろん、通常の取り調べであるはずの「供述拒否権」の告知もなかったと、あとになってAさんはふり返った。ところが、それまで警察署内のやりとりを静かに聞いていたAさんは、それまでとはうって変わり、頑(がん)として署名をしなかったという。
 
 「なんでサインしないんですか! サインしてくれなきゃ、話ができないじゃないですか」
 「話を聞こうと思って、わざわざ来てもらっているのに、おかしいじゃないですか」
 
 2人の警察官は当初は前回Aさん宅に押しかけた時とは違って、それまでは愛想笑いも浮かべて機嫌もよかったらしいが、一向に署名・捺印をしようとしないAさんにいささか動転し、だんだんと苛立ってきたという。Aさんは語る。
 
 「私も、その時の事情聴取が、あくまでも任意であることを確認し、その場で席を立ちました。階下では、家内を待たせてありました、そこで私はかねて用意してあった警察署長宛ての手紙を追いかけて来たN巡査部長に手渡そうとしましたが、N巡査部長は『何ですか、これは…』『渡したければ、自分で渡せばいいじゃないですか』と手紙を受け取ろうとしませんでした」
 
 そのあと、警察署を去ろうとするAさん夫妻に向かって、N巡査部長らは、こう言ったという。
 
 「今日、あなたが書類にサインしないというのであれば、次回以降、あなたのプライバシーにもっと立ち入ることになりますよ!」
 「次回は、指紋を取らせてもらいますけど、いいですか」
 
 そうした言葉を聞きながら、Aさん夫妻は警察署をあとにした。Aさんが警察署内で強硬に警察官の求めに応じなかった、その理由は何なのか。
 
 「ふたりの警察官が、私に署名させようとしたもの――、それは〈微罪処分書〉です」
 
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N巡査部長、S巡査長ら4名の現職警察官らが属する警察署の署長および地域課長宛てに出されたAさんからの手紙。次回記事で、全文掲載する。


 〈微罪処分書〉――聞き慣れない言葉だが、Aさんの説明によれば、事情はこうだ。通常、窃盗など、通常の刑法犯の場合、(1)警察官が容疑者を逮捕し(あるいは任意同行のあと逮捕)、(2)取り調べ、(3)本人の供述調書などを作成する。(4)そのあと検察庁に被疑者の身柄を送検するか、書類のみ送検し(5)検察庁では事案が検討され、起訴・不起訴が決まる。(6)起訴されて、被疑者は被告人となり、法廷で裁かれ「有罪」「無罪」が決定する。これが「逮捕/供述調書作成」→「身柄の送検(あるいは書類送検)」→「検察による起訴」→「裁判」、そして「判決」の流れだ。
 
 しかし、警察で扱う事案はすべて、上の流れに乗るとは限らない。被害の軽微さや被疑者の前歴などを考慮して、「ささいな罪(=微罪)」の場合、〈微罪処分〉という処理の仕方がある。これは、警察から書類を整えて検察に送る必要は無く、現場の警察官にとっても、言わば“お手軽”な方法でもある。そして、この〈微罪処分〉は、被処分者つまり犯罪(微罪)を犯してしまった人間にとってもメリットはある。それは、書類送検(=身柄を拘束されない)であっても、検察の判断で起訴され、ひとたび有罪になれば、たとえ執行猶予がついても、それは立派な「前科」である。したがって、特定の「前科」があると受けられない職種には就くことができなくなる。だから、自転車を盗んで捕まった場合なども、窃盗罪で裁判にかけられて有罪になれば、その後の社会生活にはきわめて影響は強い。けれども、〈微罪処分〉は、本人が初犯で罪を反省していたり、被害者との間に和解が成立し家族も本人への監督を約束したりしている場合に適用され、「前科」としての扱いにはならない。警察署内部の〈犯罪者リスト(=前歴照会リスト)〉には永久に残るが、それが直接外部に漏れることはない。だから、次、同じような罪で捕まった場合、前回〈微罪処分〉で放免されていることが記録からわかる(=その場合は罰も重くなる可能性はある)ぐらいで、他に何かの受験資格を失うわけではなく、〈微罪処分〉は実質的に社会生活上何の影響も無いものだ。
 
 だが、ひとつ厄介なのは、たとえそのような〈微罪処分〉であっても、ある警察官が市民に「占有離脱物横領」の容疑で事情を聞き、その市民が罪を認めて〈微罪処分書〉にサインをすれば、その一連の手続きは、立派に、その警察官の業績(=仕事上のポイント)になるということだ。
 
 もし、〈微罪処分書〉に安易に署名することで、書いた人間にも著しい不利益があとで生じる場合、警察官による〈微罪処分書〉への署名・捺印の強要は、必ず発覚する。しかし、街頭での署名活動のように、特に一つひとつの署名に大きな影響力は無く、警察署内部の記録にのみ残され、且つ、正式書類による送検するよりもはるかに簡便だとしたら、しかも、そういう〈微罪処分書〉の枚数で現場警察官らの仕事ぶりが評価され、時にそれらが「表彰」「昇進」に直結するとすれば、どういう事態が懸念されるだろうか――。
 
 それが、Aさんの経験した一連のできごとだ。
 

 Aさんは次のように推測する。
 〔1〕警察官らは、路上で網を張ってカモのかかるのを待っていたのであろう。2人の警察官は、たまたま古びた自転車に乗って通り過ぎたAさんに声をかけ、「もともとの登録者と名前が違うようだ」「話が聞きたい」と言って連絡先を聞き、何か重大な事件であるかのように大袈裟に私服の4名が自宅を急襲し、自転車を警察署に持って帰った。
 〔2〕警察署に呼んだ市民には「それでは話を聞かせて下さい」と言って、所定の手続きであるかのように、取り調べに必要なこととして〈微罪処分書〉にサインをさせる。
 〔3〕本当に、占有離脱物横領の場合は、そのまま「じゃあ…今回は初回なので…逮捕・送検は見合わせますが…」と言って寛大な措置を取ったかのように相手に恩を売り、よくよく事情を聞いて嫌疑が晴れた場合であっても「わかりました。それでは自転車をお持ち帰り下さい」と愛想よく自転車とともに本人を帰宅させればいいだけのことである。市民が自転車に乗って帰り、警察官らの手許には〈微罪処分書〉が残るのであるから、こんなに楽な仕事はない。
 
 つまり、Aさんの経験したことは、「適正な取り調べ」云々(うんぬん)ということではなく、「取り調べ」そのものをすっ飛ばして、市民を警察の〈犯罪者リスト〉に書き加える行為、まさに〈冤罪〉事件そのものである。
 
 その推理を裏づける疑問5つを、Aさんは話してくれた。
 
 (疑問1)どうして警官らは制服で職務質問しないのか。飲酒運転の取り締まりもそれとわかるようにやっている。「ネズミ捕り」ですら私服では取り締まらない。おそらく私服で路上にいるのは、職務質問の時のことを考えてではなく、ただちに警察署にとって返して、市民宅に覆面パトカーで乗りつける際に余計な波風を立てずに、言わばこっそりと事(こと)を進めるためであろう。つまり制服警官が4名も一般家庭に乗り込んでいるところを見られたら、近所でもうわさになる。自分たち警察官がやましい行為(冤罪の創出)をしているのだから、できるだけ目立たないほうがよい、こっそりと自転車などを持ち去った方があとあと警察官らにとって都合がよいのではないか。
 
 (疑問2)私服であるのに加えて、どうして、携帯電話で、どこかのセンターに電話するのか。そして、なぜ「折り返し電話」ではなく、その場で「もともとの登録者」と自転車の乗り手が異なることがわかるのか。自転車には防犯シールが貼られておらず、車体番号から問い合わせをしたらしいのだが…、それらもすべて虚言(演技)なのか。
 
 (疑問3)どうして、Aさんに声をかけて(職務質問)、その後電話も何もしないでAさん宅を、それも4人もの私服警察官が急襲するのか。「どうして4人もの警察官が…?」という疑問をAさんがある警察関係者に尋ねたところ「あなたをビビらせて、その場で〈No〉と言わせないためですよ」と裏事情を教えてくれたという。
 
 (疑問4)答申書をS巡査長が地面にしゃがんで自作している時、改造マフラーをつけてけたたましく騒音をまき散らしながら原付バイクが遠くから近づいて来たが、4名の警察官はいずれもジャンパーのポケットに手を突っ込んでそ知らぬ様子であった。どうして、取り締まらないのか――。前述の警察関係者曰く「当たり前でしょ、彼らは、とりあえず、〈占有離脱物横領〉でポイント稼ぎができればいいのだから、ほかで原付程度を見かけても、見向きもしませんよ、原付を取り締まりたかったら、またよそで網を仕掛けて待っていればいいんですから」。
 
 (疑問5)警察署で、AさんとN巡査部長、S巡査長らが話をした場所は、警察署内の正式な部屋ではなく、屋上に通じる踊り場のようなスペースで、パーテーションで区切られた場所であったという。そして、Aさんが「こういう滅茶苦茶なことをするのは納得できない。あなたたちは誰の指示でこういうことをしているのか。あなたたちの上司に会わせて欲しい」と言ったところ、S巡査長は「じゃあ、聞いてくる」と言って立ち上がり、2、3分後には「(ちゃんと書類に署名・捺印させなきゃ)だめだって」と、あたかも書類(実は〈微罪処分書〉)にサインさせることが、現場の警察官(2名)の判断ではなく、“上司”の判断(指示)であるかのような言動をしている。だが、そのあと警察署を出る際に、Aさんが、署長宛ての手紙を託そうとすると2人は、頑(かたく)なに受け取りを拒否している。それらのことから考えると、当日、2名の警察官らは実際に上司からの指示を受けておらず、署内で人目につかないように、階上の、踊り場のような場所を選んだのではないか。
 
 逆に、もし本当に、警察官が適正に職務をまっとうするのであれば、その手順は次のようになるだろう。
 
 1 町で「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」を見かけたら、声をかける(「警察官職務執行法」2条)。
 2 自転車の場合、登録されている人物と現に乗っている人物が異なる場合は、盗難届の有無を確かめ、盗難届が出ていない場合は、もともとの登録者にも連絡をとって事実関係を確認する。その際は「犯罪捜査規範」にあるように「捜査を行うに当つては、常に言動を慎み、関係者の利便を考慮し、必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意」する。
 3 特に、Aさんの場合は、自身が自転車の経緯について咄嗟(とっさ)に聞かれて記憶が不確かだったのだから、Aさんが(イ)占有離脱物横領の常習犯として正式に送検すべき事案か、(ロ)微罪として処分すべき事案か、それとも、(ハ)そもそも微罪にすらならないケースか、慎重に見極める必要があったのは確かだ。
 

 では、任意の事情聴取や取り調べをすべてすっ飛ばして、言葉巧みに〈微罪処分書〉に署名させる警察官らの行為は、どんな犯罪に当たるのだろうか。
 
 「彼らがやっていることは、かなり悪質です。なぜわざわざ自転車をその日のうちに個人宅から持ち去るのか。それは連絡先だけ聞いたのでは、警察署に市民は出向かないからでしょう。町中で声をかけ、その時の服装などから推定して1時間ほど後なら家に戻っているだろうといったことは推測できます。そこで私服警察4人で押しかけ、無言でプレッシャーをかければ、私でなくても、わけがわからない状況下では、警官は相手に対して好きなように言うことを聞かせることができるはずです。しかも、地面にしゃがんで、とりあえず答申書、つまり『私から進んで車両を警察に預けます』という“念書”を書いて、そこにサインだけさせておくのですから、あとから問題になっても『本人から了解は得ていた。ほら、この通り…』と釈明することが可能です」
 
 「自転車を“人質”に取られれば、誰でも必ず警察署に出向くはずです。第一、いったい全体どういうことなのか、事情を知りたいと思いますよね。あるいは、何かへんなことで疑われているのであれば、その疑いを晴らしたいと思うはずです」
 
 「それで、本人が警察署に来たら、あとは簡単です。『それじゃあ、話を聞きますからね、まず、ここに署名して下さい。…おっと、この用紙はマル秘扱いですから、全部はお見せできません。サインひとつしてもらえば、すぐ話を聞いて、こちらも事情がわかれば、それで終わりにしますから』――そんなふうに持ちかければ、まずたいていの人は、署名に応じるでしょう。私が〈微罪処分書〉への署名を拒むまでは、2人の警察官は、わりあい愛想もよかったです。『ハイハイ、面倒なことは早く終わらせちゃいましょうよ…』『ほらほら、ここに早くサインして…』とせかすような、促すような空気でした」
 
 「でも…、その署名というのは、〈微罪処分書〉への署名です。つまり事情を聞かれる前から、『私は罪を犯しました』という犯罪を認める書類に巧妙にサインさせられているわけです。――これは、警察官らが、市民を〈冤罪〉に陥れていることに他ならないのではありませんか。私の場合、その動かぬ証拠があります、私がサインしていない〈微罪処分書〉に、どういうわけか、身請け人欄(注・犯罪を犯した者を監督しますという署名欄)には妻の署名があるのですから…。被疑者が罪を認めて、そのあとで身請け人がサインするなら、警察官らの捜査手順はそれなりに適正と判断できます。もちろん、署名に当たって恫喝(どうかつ)するような言動があったのか無かったのかは署名そのものからはわかりませんが。いずれにしても、まず被疑者が罪を認めて署名、次に身請け人が署名――これが正しい順番です。それを、私の妻から署名させているのですから、彼ら警察官が、まともな取り調べをするつもりは毛頭無く、要は自分たちのノルマをこなせればよかったということは明らかです」
 
 「実は、警察官らは前の晩遅くにパトカーで自宅まで来て、妻の署名をもらってもよいと言っていたのですから、全くめちゃくちゃです…。とにかく手順なんてどうでもいい、〈微罪処分書〉に誰かがサインしてくれて、自分たちの仕事の評価が上がればいいんでしょう」
 
 では、どうしてAさんは、そういう警察官らの事情がわかったのだろうか。
 
 「それは2004年に、〈微罪処分書〉を悪用したケースが他府県で起きて大々的に報道されていたからです。そのケースも、やはり自転車と〈微罪処分書〉との組み合わせです。この時は、兵庫県警の組織的な関与が明らかになり、のべ160人もの警察官が処分されました。160人ですよ、いかに警察署全体が、そういう行為に手を染めていたのかが、兵庫県警の場合を考えるとよくわかりますし、兵庫県警で常習的、組織的にやられていたということは、おそらく千葉県でも行われているだろう…ぐらいのことは想像できました」
 
 「彼らのやっていることは、刑法156条違反、つまり〈虚偽公文書作成罪〉に該当する行為です。今言った兵庫県警だけではなく、この〈虚偽公文書作成罪〉は警察官の不祥事としては少なくありません。しかし、同罪は、懲役1年以上10年以下の懲役がつく立派な刑法犯罪です」
 
 〈微罪処分書〉への署名・捺印を拒否したAさんは、その後、再度警察署に出向き、N巡査部長、S巡査長らの責任者である、警察署の地域課長、地域課長代理の2名の責任者と面会する。
 
 (続く)

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 ◎兵庫県警〈微罪処分書〉の悪用で、処分者、空前の160人に!
 Aさんが記事の中で言及している、兵庫県警の〈微罪処分書〉悪用事件(04年発覚)は、下記の神戸新聞・特集記事に詳しい。但し、兵庫県警の場合は、書類に架空の名前を記載していたというもので、千葉県警のケースと比べ、違いもあるようだ。
 http://www.kobe-np.co.jp/news_now/04kenkei.shtml

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千葉県下、ある警察署前に立てられた看板。「みんなでつくろう、安心・安心な街」とあるが、今回Aさんの経験したようなことが公然と行われているような街では、市民はおちおち落ち着いて生活できないだろう。