栃木県で起きた足利事件、富山県の氷見事件などの〈冤罪〉事件以外にも、高知白バイ事件(注1)、元警視庁の黒木氏の追う岩手県警での指名手配事件でも、無実の人間が、収監されたり、指名手配されたりしている可能性が高い。他にも、検察の裏金に対する「口封じ」の為に、静岡刑務所に収容されていた三井環氏の例(注2)もある。
足利事件、氷見事件などは「誰でもいいから“犯人”を逮捕しさえすればいい」という堕落した警察の典型であるし、三井氏の場合は〈裏金〉に対する口封じ、高知白バイ事件は、警察の組織の都合しか考えない体質の現われであると言える。
そういった数々の〈冤罪〉事件への反省から、議論されているのが「取り調べの可視化」だ。しかし、ひとつ蛇足ながら付記しておくと、記者は「取り調べの可視化」について大きな疑念を持っている。それは、取り調べの警察官が、被疑者の下半身にタバコの火を押しつけながら次のように被疑者を脅(おど)したらどうなるか――ということだ。
「いいか、これから、おまえの取り調べ風景をビデオ撮りするから、迫真の演技で犯行を“自白”しろ! そうしなければ、おまえはここから出られないぞ!」
「なんだ、今の“自白”の仕方は! それでは取り調べ官の後ろ壁に貼ってあるペーパーを棒読みなのが丸わかりじゃないか! 撮り直し、撮り直し!」
「『やりました』と言えよ」「調書に署名しろよ」――このように密室で強要されて断われず、警察・検察の望むように言ったり書いたりさせられた人間が、どうして「カメラの前で『やりました』と言えよ」「カメラの前で調書に署名しろよ」という要求だけは、突っぱねることができるだろうか。
今はまだよい。つまり、取り調べの状態が記録(映像)に撮られていないから、あとから「実は、殴られて『やりました』と言わせられたのです」と訴えることはできる。しかし、タバコの火を押しつけられて、何度も撮り直しをさせられた末に、警察の演出通りのノーカット映像が法廷で流された時、はたして「違うんです、あの映像は実はタバコの火を押しつけられて、何度も撮り直しさせられたものです」という被告人の訴えが裁判官の耳に届くだろうか。
記者は、「取り調べの適正化」には賛成であるが、「取り調べの可視化」で適正化が図れるのか、「取り調べの可視化」が実は「演出された取り調べの映像化」になることはないのか、その「演出された取り調べ映像」によって今まで以上に無実の市民が〈冤罪〉のアリ地獄に落ち込むことはないのか――記者はそんなことも危惧している。
◇
さて、今回記者が紹介するのは、取り調べの中で無実の人を犯人に仕立て上げる方法ではなく、取り調べを省略して一市民を〈犯罪者リスト〉に書き加え、自分たちのポイント(仕事上のノルマ)を加算して行くという、現職警察官らの巧妙な手口である。以下に紹介する方法は、巧妙であるがゆえに、市民の側では、自分たちが〈冤罪〉に陥(おとしい)れられているということに今まで気づかなかった可能性もある。もしくは、その巧妙さゆえにごくふつうの市民では何か釈然としなくても意見を言えないままにこれまで見過ごされてきたことも考えられる。暴力的な取り調べで、無実の市民が〈冤罪〉に巻き込まれるのも恐ろしいことだが、取り調べの無いままに市民が「犯罪者リスト」に書き連ねられているとしたら、これは憂慮すべきことではないだろうか。
◇
千葉県内のある町で、家族と買い物をしにショッピングセンターに来ていたAさんは、信号待ちをしていたところ、「もしもし」と私服の男性(以下、S巡査長と表記する)に呼び止められた。男は、「Police」の徴章の入った身分証をちらりと見せると、こう言った。
「おたくの自転車をちょっと確認させてもらえますか」
すると、もう一人のジャンパー姿の男性(以下、N巡査部長と表記する)も駆け寄り、無線機ではなく自分の携帯電話で自転車の車体番号をどこかに問い合わせ始めた。N巡査部長は「あなたの名前を言って下さい」「早く言って下さい、早く…」とAさんをせかし、名前を聞くとさらに言葉を続けた。
「この自転車の登録されている持ち主と、あなたの名前が違うようです、あとで事情を聞きたいと思いますから連絡先を聞かせてもらえますか」
Aさんは、インターネットの「譲ります」コーナーで自転車を譲り受けたことや、すでに引っ越したアパート住人の自転車、つまり明らかに「無主物」(=所有者なし)であるものを修理して乗っていたこともあるので「名前が違う」と言われれば理由のあることだと思い、別段深く考えずに、自宅の連絡先(住所・電話番号)を教えたという。もちろん、後日警察から問い合わせがあれば、自分の知っていることを伝えようと考えていた。

2人の警察官と別れてからAさんは家族と買い物を済ませ、家に帰った。一服しようとしてやかんを火にかけた時、玄関の呼び鈴が鳴った。「届け物かな」と思いつつ、外出着のまま玄関の扉を開けると、そこにはさきほどの警察官ら、計4名もの男性が私服で立っていたという。
「警察です、さきほどの自転車の件ですが、いいですか」
N巡査部長はAさんを屋外の自転車の止めてあるところまで促し、こう言ったという。
「自転車を預かりますから」
そう言うN巡査部長の背後には、新たに2名の警察官がマスクをしてジャンパーに両手を入れて押し黙ってじっとAさんのことを見つめていた。アパートの横には、白色の、いわゆる覆面パトカーが止めてあり、N巡査部長、S巡査長のふたりは町中でAさんに声をかけた後、ただちに警察署に戻ってほかの2名の加勢を頼んでAさん宅に乗りつけたらしい。
この事態に、さすがのAさんもいささか驚いた。
「私が町で声をかけられて帰宅するまで1時間ちょっとです。一体何が起きているのか、事情が飲み込めず、迷いました。しかも、必ずしもていねいな口調ではなく、ぞんざいで、わざと無愛想を装うよう雰囲気もありましたし、どうしてわざわざ4人もの私服警察官が電話での連絡も無く突然玄関口に来るのか……わかりかねました」
S巡査長は、自転車の止めてある駐車場で、その場にしゃがみ、白紙の用紙に何やら書き連ね、そこにAさんの署名と捺印(なついん)を求めたという。
「よく〈冤罪〉事件で、取り調べ調書に署名・捺印を押してしまうという話を聞きます。私もその時の経験から、ふたつの理由で、署名・捺印に応じてしまう心理が理解できました。ひとつは、お届け物などを受け取る時と同じです。『ここにサイン、お願いします』と用紙を出された時、細かい字で何か書いてあっても、宅配便の人を待たせたまま『ここの細かい約款(やっかん)を全部読ませてもらえますか?』とその場ですべて読んだり、『コピー1部もらえますか』と写しを取ったりする人はいないと思います。宅配便を受け取る時に、いちいちそんなことをしていたら、業者の人にも迷惑です。宅配便に限らず、市役所で届けを出す時も『これとこれに住所、氏名を書いて、捺印して下さい』と用紙を出されれば、多くの人がその指示に従うでしょう。つまり、『相手は専門職(プロ)なのだから、専門知識をもとに良識をもって仕事をするだろう、だから、とりあえず信用して指示に従おう』という意識です。場合によっては、『相手がニセ警察官ではないか』と疑う人はいても、『ホンモノの警察官が悪いことをするのではないか』と疑心暗鬼になる人はふつう居ないでしょう」
「もう一つは、それとは異質の『イヤとは言わせないその場の雰囲気』です。私の場合、町中で声をかけられた時は、まぁ、何か聞かれれば答えるし、警察官が仕事(捜査)をしているのであれば協力しよう…ぐらいの気持ちでいました。それが、覆面パトカーで4人の私服警察官たちが、突然自宅を訪問して、ちょっとこれはただごとではないな…と思い直しました。しかし、それでも極秘の内偵捜査か何か……であれば、とにかく、こちらも言うべきことは言って、万一、嫌疑が(私自身にでも)かけられているのであれば、警察署に行って説明すれば済むことだとも思いました」
用紙に署名・捺印を求められたAさんは自宅に入り署名・捺印をした。そこには「答申書」と、タイトルがきたない字で書かれていた。内容を読もうとしたが、字が乱雑なこともあってすぐには一読できなかったので、Aさんは、屋外で同行の警察官(注・この警官は後日警部補であることがわかる)に「いちおうコピーをとらせてもらってよいですか」と尋ねた。すると、その私服警官(K警部補)は、「あ…、それは捜査資料ですからだめです」と言って、それをそのまま引き取ったという。
「捜査資料」と言うからには、何か事情でもあるのかとAさんは怪訝(けげん)に思いつつ、さらにN巡査部長から、「これにも(サインして下さい)」と事務的に言われ、1枚の用紙にもサインをした。しかし、その文面をちらりと盗み見て、Aさんは、はっとしたという。
「一瞬でしたが、そこにははっきりと『私は勝手に自転車を乗り回していました』という内容が鉛筆で書いてあったのです。そこで、私はその記述を指差し、記述内容が全く事実とは異なること、そして、今私のした署名の取り消しを求めました」
するとN巡査部長は、その内容を見られたことに気まずそうな表情をしながら「いいから、いいから」と言ってAさんの抗議にはとりあわず、ほかの3人に目くばせをして、引き上げていったという。
これが、およそ2年前に、Aさんの身にふりかかった災難である。
こういうことは、おそらく千葉県内だけではなく、ほかの自治体の警察でも行われている可能性はある。しかも、Aさんへの災難は、これだけでは済まない。警察署からの呼び出しに応じたAさんに、警察官らは、想像もしなかったある方法で、奇妙な“取り調べ”をしたという。

さて、写真にある千葉県警新庁舎は、09年6月から運用が開始されている。屋上にヘリポートを備え、地上11階、地下2階、総工費約300億円という立派なものだ。その落成式で、五十嵐邦雄県警本部長は「新庁舎という仏に魂を入れ、しっかりと職務に邁進(まいしん)していきたい」とあいさつをした。県警本部長自身へは、現場でのこうした好ましくない実態については、もちろん報告されていないはずだが、千葉県警には不正経理ももちろんだが、こうした現場警察官らの不品行にもきちんとした監督の目を行き届かせてもらいたいものだと思う。次回、警察署内での詳細を報告する。
(注1)「高知白バイ事件」は、1年4カ月間加古川刑務所に服役させられていた片岡さん自身の証言その他の資料・証言により、〈冤罪〉であることはほぼ確定的であるが、まだ高知県警は〈冤罪〉を認めていない。
(注2)三井環氏は本人も「よくわからない」と言うぐらいの微罪でまず身柄を拘束(=逮捕)され、あとで暴力団からの利益供与(収賄罪)でさらに追起訴されている。三井氏は、地裁、高裁、最高裁と検察組織による「口封じ」逮捕を主張したが、「裁判所-検察」はある意味で互助会のようなものである。三井氏の収監についても、検察も裁判所も特にコメントはしていない。しかし、逮捕のねらいは事情をよく知るものからすれば明らかだ。
〈関連記事〉
◎「高知白バイ事件」(小倉文三記者)
http://www.news.janjan.jp/living/0810/0810240103/1.php
http://www.janjannews.jp/archives/2914533.html
◎黒木昭雄氏の追及する岩手県警事件
http://www.janjannews.jp/archives/2618826.html
◎三井環氏の語る〈検察の裏金〉
http://www.janjannews.jp/archives/2808250.html
〈関連サイト〉
◎高知白バイ事件・片岡さんを支援するサイト
http://www.geocities.jp/haruhikosien/
足利事件、氷見事件などは「誰でもいいから“犯人”を逮捕しさえすればいい」という堕落した警察の典型であるし、三井氏の場合は〈裏金〉に対する口封じ、高知白バイ事件は、警察の組織の都合しか考えない体質の現われであると言える。
そういった数々の〈冤罪〉事件への反省から、議論されているのが「取り調べの可視化」だ。しかし、ひとつ蛇足ながら付記しておくと、記者は「取り調べの可視化」について大きな疑念を持っている。それは、取り調べの警察官が、被疑者の下半身にタバコの火を押しつけながら次のように被疑者を脅(おど)したらどうなるか――ということだ。
「いいか、これから、おまえの取り調べ風景をビデオ撮りするから、迫真の演技で犯行を“自白”しろ! そうしなければ、おまえはここから出られないぞ!」
「なんだ、今の“自白”の仕方は! それでは取り調べ官の後ろ壁に貼ってあるペーパーを棒読みなのが丸わかりじゃないか! 撮り直し、撮り直し!」
「『やりました』と言えよ」「調書に署名しろよ」――このように密室で強要されて断われず、警察・検察の望むように言ったり書いたりさせられた人間が、どうして「カメラの前で『やりました』と言えよ」「カメラの前で調書に署名しろよ」という要求だけは、突っぱねることができるだろうか。
今はまだよい。つまり、取り調べの状態が記録(映像)に撮られていないから、あとから「実は、殴られて『やりました』と言わせられたのです」と訴えることはできる。しかし、タバコの火を押しつけられて、何度も撮り直しをさせられた末に、警察の演出通りのノーカット映像が法廷で流された時、はたして「違うんです、あの映像は実はタバコの火を押しつけられて、何度も撮り直しさせられたものです」という被告人の訴えが裁判官の耳に届くだろうか。
記者は、「取り調べの適正化」には賛成であるが、「取り調べの可視化」で適正化が図れるのか、「取り調べの可視化」が実は「演出された取り調べの映像化」になることはないのか、その「演出された取り調べ映像」によって今まで以上に無実の市民が〈冤罪〉のアリ地獄に落ち込むことはないのか――記者はそんなことも危惧している。
さて、今回記者が紹介するのは、取り調べの中で無実の人を犯人に仕立て上げる方法ではなく、取り調べを省略して一市民を〈犯罪者リスト〉に書き加え、自分たちのポイント(仕事上のノルマ)を加算して行くという、現職警察官らの巧妙な手口である。以下に紹介する方法は、巧妙であるがゆえに、市民の側では、自分たちが〈冤罪〉に陥(おとしい)れられているということに今まで気づかなかった可能性もある。もしくは、その巧妙さゆえにごくふつうの市民では何か釈然としなくても意見を言えないままにこれまで見過ごされてきたことも考えられる。暴力的な取り調べで、無実の市民が〈冤罪〉に巻き込まれるのも恐ろしいことだが、取り調べの無いままに市民が「犯罪者リスト」に書き連ねられているとしたら、これは憂慮すべきことではないだろうか。
千葉県内のある町で、家族と買い物をしにショッピングセンターに来ていたAさんは、信号待ちをしていたところ、「もしもし」と私服の男性(以下、S巡査長と表記する)に呼び止められた。男は、「Police」の徴章の入った身分証をちらりと見せると、こう言った。
「おたくの自転車をちょっと確認させてもらえますか」
すると、もう一人のジャンパー姿の男性(以下、N巡査部長と表記する)も駆け寄り、無線機ではなく自分の携帯電話で自転車の車体番号をどこかに問い合わせ始めた。N巡査部長は「あなたの名前を言って下さい」「早く言って下さい、早く…」とAさんをせかし、名前を聞くとさらに言葉を続けた。
「この自転車の登録されている持ち主と、あなたの名前が違うようです、あとで事情を聞きたいと思いますから連絡先を聞かせてもらえますか」
Aさんは、インターネットの「譲ります」コーナーで自転車を譲り受けたことや、すでに引っ越したアパート住人の自転車、つまり明らかに「無主物」(=所有者なし)であるものを修理して乗っていたこともあるので「名前が違う」と言われれば理由のあることだと思い、別段深く考えずに、自宅の連絡先(住所・電話番号)を教えたという。もちろん、後日警察から問い合わせがあれば、自分の知っていることを伝えようと考えていた。
Aさんが2名の私服警察官に声をかけられた現場横断歩道。近くには大型商業施設があり、自転車での通行が多いことから、警察官らは、この場所にねらいを定めて待っていたようだ。(撮影・三上英次 以下同じ)
2人の警察官と別れてからAさんは家族と買い物を済ませ、家に帰った。一服しようとしてやかんを火にかけた時、玄関の呼び鈴が鳴った。「届け物かな」と思いつつ、外出着のまま玄関の扉を開けると、そこにはさきほどの警察官ら、計4名もの男性が私服で立っていたという。
「警察です、さきほどの自転車の件ですが、いいですか」
N巡査部長はAさんを屋外の自転車の止めてあるところまで促し、こう言ったという。
「自転車を預かりますから」
そう言うN巡査部長の背後には、新たに2名の警察官がマスクをしてジャンパーに両手を入れて押し黙ってじっとAさんのことを見つめていた。アパートの横には、白色の、いわゆる覆面パトカーが止めてあり、N巡査部長、S巡査長のふたりは町中でAさんに声をかけた後、ただちに警察署に戻ってほかの2名の加勢を頼んでAさん宅に乗りつけたらしい。
この事態に、さすがのAさんもいささか驚いた。
「私が町で声をかけられて帰宅するまで1時間ちょっとです。一体何が起きているのか、事情が飲み込めず、迷いました。しかも、必ずしもていねいな口調ではなく、ぞんざいで、わざと無愛想を装うよう雰囲気もありましたし、どうしてわざわざ4人もの私服警察官が電話での連絡も無く突然玄関口に来るのか……わかりかねました」
S巡査長は、自転車の止めてある駐車場で、その場にしゃがみ、白紙の用紙に何やら書き連ね、そこにAさんの署名と捺印(なついん)を求めたという。
「よく〈冤罪〉事件で、取り調べ調書に署名・捺印を押してしまうという話を聞きます。私もその時の経験から、ふたつの理由で、署名・捺印に応じてしまう心理が理解できました。ひとつは、お届け物などを受け取る時と同じです。『ここにサイン、お願いします』と用紙を出された時、細かい字で何か書いてあっても、宅配便の人を待たせたまま『ここの細かい約款(やっかん)を全部読ませてもらえますか?』とその場ですべて読んだり、『コピー1部もらえますか』と写しを取ったりする人はいないと思います。宅配便を受け取る時に、いちいちそんなことをしていたら、業者の人にも迷惑です。宅配便に限らず、市役所で届けを出す時も『これとこれに住所、氏名を書いて、捺印して下さい』と用紙を出されれば、多くの人がその指示に従うでしょう。つまり、『相手は専門職(プロ)なのだから、専門知識をもとに良識をもって仕事をするだろう、だから、とりあえず信用して指示に従おう』という意識です。場合によっては、『相手がニセ警察官ではないか』と疑う人はいても、『ホンモノの警察官が悪いことをするのではないか』と疑心暗鬼になる人はふつう居ないでしょう」
「もう一つは、それとは異質の『イヤとは言わせないその場の雰囲気』です。私の場合、町中で声をかけられた時は、まぁ、何か聞かれれば答えるし、警察官が仕事(捜査)をしているのであれば協力しよう…ぐらいの気持ちでいました。それが、覆面パトカーで4人の私服警察官たちが、突然自宅を訪問して、ちょっとこれはただごとではないな…と思い直しました。しかし、それでも極秘の内偵捜査か何か……であれば、とにかく、こちらも言うべきことは言って、万一、嫌疑が(私自身にでも)かけられているのであれば、警察署に行って説明すれば済むことだとも思いました」
用紙に署名・捺印を求められたAさんは自宅に入り署名・捺印をした。そこには「答申書」と、タイトルがきたない字で書かれていた。内容を読もうとしたが、字が乱雑なこともあってすぐには一読できなかったので、Aさんは、屋外で同行の警察官(注・この警官は後日警部補であることがわかる)に「いちおうコピーをとらせてもらってよいですか」と尋ねた。すると、その私服警官(K警部補)は、「あ…、それは捜査資料ですからだめです」と言って、それをそのまま引き取ったという。
「捜査資料」と言うからには、何か事情でもあるのかとAさんは怪訝(けげん)に思いつつ、さらにN巡査部長から、「これにも(サインして下さい)」と事務的に言われ、1枚の用紙にもサインをした。しかし、その文面をちらりと盗み見て、Aさんは、はっとしたという。
「一瞬でしたが、そこにははっきりと『私は勝手に自転車を乗り回していました』という内容が鉛筆で書いてあったのです。そこで、私はその記述を指差し、記述内容が全く事実とは異なること、そして、今私のした署名の取り消しを求めました」
するとN巡査部長は、その内容を見られたことに気まずそうな表情をしながら「いいから、いいから」と言ってAさんの抗議にはとりあわず、ほかの3人に目くばせをして、引き上げていったという。
これが、およそ2年前に、Aさんの身にふりかかった災難である。
こういうことは、おそらく千葉県内だけではなく、ほかの自治体の警察でも行われている可能性はある。しかも、Aさんへの災難は、これだけでは済まない。警察署からの呼び出しに応じたAさんに、警察官らは、想像もしなかったある方法で、奇妙な“取り調べ”をしたという。
昨年新築された千葉県警新庁舎。警察の〈裏金〉は、どこの県でも問題になっているが、千葉県警は今年2月に、平15~20年の5年間で計5億7千万円もの不正経理(=裏金?)があったことを発表している。
さて、写真にある千葉県警新庁舎は、09年6月から運用が開始されている。屋上にヘリポートを備え、地上11階、地下2階、総工費約300億円という立派なものだ。その落成式で、五十嵐邦雄県警本部長は「新庁舎という仏に魂を入れ、しっかりと職務に邁進(まいしん)していきたい」とあいさつをした。県警本部長自身へは、現場でのこうした好ましくない実態については、もちろん報告されていないはずだが、千葉県警には不正経理ももちろんだが、こうした現場警察官らの不品行にもきちんとした監督の目を行き届かせてもらいたいものだと思う。次回、警察署内での詳細を報告する。
(注1)「高知白バイ事件」は、1年4カ月間加古川刑務所に服役させられていた片岡さん自身の証言その他の資料・証言により、〈冤罪〉であることはほぼ確定的であるが、まだ高知県警は〈冤罪〉を認めていない。
(注2)三井環氏は本人も「よくわからない」と言うぐらいの微罪でまず身柄を拘束(=逮捕)され、あとで暴力団からの利益供与(収賄罪)でさらに追起訴されている。三井氏は、地裁、高裁、最高裁と検察組織による「口封じ」逮捕を主張したが、「裁判所-検察」はある意味で互助会のようなものである。三井氏の収監についても、検察も裁判所も特にコメントはしていない。しかし、逮捕のねらいは事情をよく知るものからすれば明らかだ。
〈関連記事〉
◎「高知白バイ事件」(小倉文三記者)
http://www.news.janjan.jp/living/0810/0810240103/1.php
http://www.janjannews.jp/archives/2914533.html
◎黒木昭雄氏の追及する岩手県警事件
http://www.janjannews.jp/archives/2618826.html
◎三井環氏の語る〈検察の裏金〉
http://www.janjannews.jp/archives/2808250.html
〈関連サイト〉
◎高知白バイ事件・片岡さんを支援するサイト
http://www.geocities.jp/haruhikosien/