きょうの社説 2010年3月29日

◎県の産業戦略改定 具体的な施策で肉付けを
 石川県は新年度から5カ年の産業振興指針となる「産業革新戦略2010」を策定した 。2005年度から14年度まで10カ年の現行産業戦略の内容を中間点で見直したものだ。国内外の経済情勢の変化に応じて産業戦略を修正することは当然であり、今後は予算の裏付けもある具体的な施策で新戦略に肉付けしていくことが重要である。

 これまでの産業革新戦略には、新事業の創出件数など具体的な数値目標と、それを達成 するために県の担当部署や関係機関が取り組む行動計画も示されている。戦略の改定に併せて、これらの目標、計画の見直しも必要である。

 新戦略は県内産業の重要課題の一つとして、世界経済の変動の影響を受けやすい機械産 業などを中心とした産業構造を、多様性のある産業構造に移行させることを挙げている。その上で▽基幹産業等のさらなる競争力強化▽次世代産業の創造▽ニッチトップ企業の育成▽戦略的企業誘致の推進▽産業人材の総合的育成・確保―の5点を基本戦略に掲げた。

 県内では「すきま市場」でシェア1位のニッチトップ企業が多く育っている。これまで 「次世代型企業の育成」という基本戦略の中に位置づけていたニッチトップ企業の育成を基本戦略の柱に格上げして、一段と力を入れることにした。ただ、五つの基本戦略は目新しいものではない。

 重要なことは基本戦略そのものより、むしろ戦略の方向に企業活動を導く実際の施策で ある。その点で注視したい新年度の取り組みは、次世代産業の育成をめざす100億円規模の官民ファンドの創設と、県工業試験場内に整備される新たな研究開発拠点である。

 新ファンドは、産業創出を目的にした地域独自のものとしては全国最大規模とされる。 既設の産業化資源活用推進ファンドと合わせ二つの産業関連基金がそろうことになり、県の基金活用能力、有望な新事業を見極める「目利き力」が試されることになる。また、新しい研究開発拠点は、炭素繊維や機能性食品の製品開発に主眼を置くという。ぜひ具体的な成果につなげてもらいたい。

◎障害者訴訟で和解 福祉の担い手確保も課題
 障害者自立支援法をめぐる違憲訴訟が、埼玉の訴訟を皮切りに和解に向かい、これに伴 って自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法」制定に向けた議論が本格化することになった。

 2006年施行の障害者自立支援法は「応益負担」制で、障害者は福祉サービス利用料 の原則1割を自己負担しなければならない。より多くのサービスが必要な重度の人ほど負担が重くなるため、原告側は「生存権を保障する憲法に反する」と訴えていた。

 政府が「障害者の尊厳を深く傷つけたことを反省する」という和解条項を受け入れ、新 法の制定を確約したのは、弱い立場の人たちの意見に基づいて新しい制度をつくろうという鳩山政権の福祉政策を象徴するものといえる。

 ただ、応益負担制を改めるのはよいとしても、障害者の自立を支援するという現行法の 理念まで否定されるものではなかろう。大きな課題である財源確保の手だてを含めた総合的な自立支援制度の確立が求められているのであり、そこで欠かせないのは、財源に加えて障害福祉サービスを支える人材の確保である。

 厚生労働省によると、福祉の分野で働く人たちの離職率は、07年調査で15・7%と 高く、高齢者介護の職場と同様に深刻な人手不足が続いている。給与水準の低さが一番の要因とされる。

 障害者自立支援法の施行に伴って報酬が引き下げられた上、支払い方法が月払いから、 利用日だけ支払われる日払い制に変更されたため、福祉サービス事業所の経営が厳しくなり、非正規職員が増えているともいわれる。

 深刻な人材不足を受け、09年度に事業所向けの報酬が平均5・1%引き上げられた。 が、厚労省の調査では、常勤職員の平均月収は08年比2・4%、7170円増の30万5660円、非常勤職員は2460円増の11万9960円であり、報酬引き上げによる給与の改善は限定的であった。

 持続可能な新しい障害福祉制度をめざすなら、政府は待遇改善を求める事業所職員らの 声にも耳を傾けなければなるまい。