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【社会】

崩れる「求刑8掛け」 裁判員判決で量刑に異変

2010年3月27日 16時13分

 刑事裁判に「国民の良識」を取り入れようと昨年5月に始まった裁判員制度。刑の重さをめぐり、これまで裁判官が培ってきた量刑相場や裁判例に対して、裁判員が異を唱える場面が相次いでいる。市民感覚で、裁判が変わりつつある。

 「過去の裁判例も参考にしたが、国民感情では軽いと感じられることも考慮した」

 2月下旬、女子高校生への強姦(ごうかん)致傷罪などに問われた溶接工の男(36)に懲役9年(求刑懲役10年)を言い渡した名古屋地裁の裁判員裁判。芦沢政治裁判長は判決理由でこう言及した。裁判員も判決後の記者会見で、同種犯罪の量刑傾向について「軽い」と口をそろえた。

 「一般常識を判決に反映させたかった」と40代の男性裁判員。30代の女性裁判員は「求刑を聞いて、そんなに軽いんだと驚いた。いきなり量刑を重くするのは難しいだろうが、徐々に国民目線を取り入れてほしい」と期待を込めた。

 愛知県弁護士会刑事弁護委員会の岩井羊一副委員長は「性犯罪では裁判員制度が始まる前から重罰化の傾向があったが、裁判員が加わることで、厳罰を訴える被害者側の声がより反映されるようになった」とみている。

 裁判官だけによる従来の裁判では「求刑の8掛け(0・8倍)」が量刑相場とも言われてきた。だが裁判員裁判では、相場が「軽い」と批判され、求刑通りや8掛け以上の判決が出る事例が性犯罪事件を中心に目立つ。逆に身内同士のいさかいによる傷害致死事件では、求刑の半分以下の軽い刑が出たケースもある。

 量刑の幅が広がるのは法曹関係者の間で予想されてきた。名古屋地検幹部は「口頭のやりとりが中心となる裁判員裁判では、公判の雰囲気などに応じ求刑自体も幅が出つつあるのでは」と指摘する。

 量刑相場は刑罰の均衡を保つ役割もあるとされ、暗黙のうちに法曹界に浸透してきた。だが、4人による強盗事件で強盗致傷罪などに問われた韓国籍の男(32)に懲役7年6月(求刑懲役8年)を言い渡した名古屋地裁の裁判員裁判で、裁判員を務めた男性会社員(36)は「裁判員裁判だから、バランスにとらわれてはいけないと思った」と振り返った。

 男の弁護を担当した岩井弁護士は「量刑の幅が広がり、『出たとこ勝負』の判決が続けば、被告に不平不満が残る。そうなれば更生にも支障が出るのではないか」と心配する。

 南山大法科大学院の丸山雅夫教授(刑事法)は控訴審に注目する。市民感覚が反映された一審判決を、裁判官だけによる控訴審がどう扱うのか。

 最高裁司法研修所は「市民感覚が反映された一審の結果をできるだけ尊重すべきだ」との見解を示す中、「控訴棄却が相次げば上訴制度の意味がなくなるジレンマもある」と丸山教授。「『従来の量刑が軽い』という市民感覚は判決の中では傍論にすぎないが、意図的かどうかは別として、世間の見方を示すことで被告に控訴を思いとどまらせる作用もあるかもしれない」

 【裁判員裁判の量刑判断】 裁判員6人と裁判官3人の合議で「被告は有罪」と判断したら、刑罰を話し合う。意見が一致しない場合、一番重い量刑を主張する人から順に数えて5番目の人の唱える量刑が採用される。その5人には必ず裁判官1人を含まなければならないとの規定があり、仮に裁判員がこぞって極端に重い量刑に走っても、裁判官1人の意見が必ず反映するため「極端な刑が出ることはあり得ない」(刑事裁判官)との見方がある。

 (中日新聞)

 

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