きょうのコラム「時鐘」 2010年3月28日

 元気な黒部のトキである。加賀や福井の空にも姿を見せた。この地が気に入ってくれたのなら、うれしい

恋の季節。いしかわ動物園では、産卵が確認された。福井までの旅も恋人探しだろうが、方角が違う。「いったん東に戻って、相手を連れて帰ってこい」と声を掛けたくなる

「鶴」という落語がある。名前の由来を問われて、珍解釈が登場する。昔、中国から2羽の鶴が飛んできた。まず雄が「つー」と飛んできた。続いて雌が「るー」とやってきた。すぐにウソだとばれる話が、愉快な騒ぎを巻き起こす

名前の由来はともかく、鶴は雌雄一対が絵になる。黒部のトキも、単独行はわびしかろう。縁組を約束しても、ビール会社や大手百貨店が破談に終わるご時世である。が、鳥の世界に、複雑な思惑や裏事情などはあるまい

雄が「つー」と飛んできて「るー」と枝に止まった、と間違えるのが落語の結末。「雌はどうした」と問われて、「黙って飛んで来た」。くすっと笑えるが、人間サマが騒がなくても、黙って相手を見つけるのが野生の習い。あのトキにも、そんなたくましさを見てみたい。