日めくり芸能界 11月
【94年11月24日】長渕剛、桑田佳祐に宣戦布告!「売られたケンカは買う」
「腕が鳴るよ、ここまで人をコケにしておりて、今度は歌できやがったかと…この落とし前はつけてもらう」
この日発売された月刊誌「Views」(講談社)のインタビュー記事で、シンガー・ソングライターの長渕剛(38)が、穏やかでない言葉を連発していた。怒りの矛先は、サザンオールスターズの桑田佳祐(38)に向いていた。「安易に人をちゃかした歌をつくって当てようなんざ、動機が不純なんだよ。不順というより、不潔だ」。
事の発端は9月に発売された桑田のソロアルバム「孤独の太陽」に収録された「すべての歌に懺悔しな!」だった。歌詞にある「小粋な仮面でどこかパクッた小言を連呼」がヒット曲「RUN」での長渕の盗作騒動を指し、「テレビに出ないと言ったのに、ドラマの主役にゃ燃えている」が「アリよさらば」でドラマ初主演を務めた矢沢永吉(45)を揶揄しているのではないかと、一部夕刊紙が取り上げ、騒動が明るみに出た。
これに対し桑田は10月12日に記者会見を開き「歌詞の一部分だけを抜き出して書かれた記事。私小説的にまとめたいという気持ちから自分のことを歌っているのであって、特定の人を意識したわけではない」と釈明。その上で「長渕さんや矢沢さん、関係者やファンの方にご迷惑をかけ、大変申し訳ない」。矢沢の元へ直接謝罪に出向いたことや、謝罪文を送る意向であることを明かしていた。
これで騒動は鎮静化すると思われたが、長渕の心は収まらなかった。「誠意のかけらも感じられねえ。40近くになった男が筋の通し方も知らないんで、突っ返しました」。謝罪文は会見翌日にレコード会社の制作部長によって長渕の事務所に届けられた。だが、本人が持参しなかった上に、封印もされておらず、長渕には誠意が感じられなかったという。
「手紙には“あえていえば自分自身のことを歌ったもの”なんて書いてあったが、(歌詞では)最後に“いらっしゃい”なんて言ってる。あれはオレが2年前、東京ドームでライブをやった時に、ファンに開口一番放った言葉じゃねぇか。これはまぎれもなくオレだよ」。
自ら桑田の自宅を調べ上げ、謝罪文を送り返すと同時に「サシで徹底的に勝負する日が来るだろう」などと記した“果たし状”も同封。「ケンカのやり方も知らねえ人間が、相手かまわずケンカを売っちゃいかんよ。こりゃ、まずいよ」。1対1の場面を用意して筋を通すよう、強く要求した。
かねてから長渕と桑田の間には不仲が噂されていた。長渕が同誌に語ったところでは、83年7月、桑田からコンサートへのゲスト出演を依頼されたが、いざ行ってみるとそれはまったくの前座扱い。公演中に桑田からはビールを掛けられる屈辱も受けた。無礼講&お祭ムードのサザンの“ノリ”が、長渕のプライドをズタズタにし、因縁めいた傷を心に残していたのかもしれない。
“宣戦布告”された桑田はノーコメントを貫いたが、同年12月21日に発売したビデオ&ドキュメンタリーのタイトルが「すべての…」だったため、火に油を注ぐ結果を招いた。
「長渕が決着をつけるため、サザンのコンサートに乗り込むらしい」
怪情報が駆け巡ったのは年の瀬のこと。12月30、31日に予定されていたサザンのコンサートに長渕が乱入するのではないかと、ファンは一様に色めき立った。
だが、長渕は姿を現さなかった。「ナガブチです」「オレはケンカしたら弱いぞ!」。ライブ当日、ステージ上から1万2000人の観客に向けて、ジョークたっぷりに自己紹介していたのは桑田だった。
「すべての…」の歌詞には「クスリにゃ目がない…」という言葉もあった。皮肉なことに、このフレーズ通り、長渕は翌年早々に大麻取締法違反(所持)で逮捕された。年明けには氷解ムードも流れていたが、騒動はこれでうやむやになった。その後、長渕サイドから手打ちを申し出たとの報道もなされた。だが、長渕がどんな“大人の筋”を通したのかは、ついに明らかにならなかった。
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