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さまざまな細胞になる能力があるヒト幹細胞を使ってあごの骨を増やす治療法で、松本歯科大(塩尻市)の上松隆司准教授らのチームが、同大で患者から採取した骨髄液を信大病院(松本市)の「先端細胞治療センター(CPC)」に運び、中に含まれる幹細胞を培養、再び患者に戻し骨を再生させることに成功した。26日、上松准教授や信大の下平滋隆准教授らが同歯科大で記者会見し明らかにした。
両准教授らによると、扱いの難しい幹細胞を他施設へ搬送する治療法は厚生労働相の認可を得にくく、全国初の実施。これにより、一般医療施設で採取した骨髄液をCPCへ運び、患者自身の骨髄による「幹細胞製剤」を作って治療に活用する道が開けた。
歯周病などで歯を失った場合、金属製の人工歯根(インプラント)をあごの骨に埋める治療が可能だが、骨が薄くなっていて埋められないことがある。従来は骨の再生を誘導する補てん剤を注入、自然に骨が増えるのを待っていた。
一方、幹細胞を培養して補てん剤などと一緒に移植すると、早く骨が回復する。ただ、治療用に幹細胞を供給できるレベルの培養施設は信大を含め全国でも数カ所で、それ以外の施設では幹細胞による治療を活用できずにいた。
治療を受けたのは県内の65歳と57歳の女性。昨年11月と今年1月に松本歯科大で骨髄液を採取し、信大で間葉系幹細胞を約3週間培養。歯科大に戻してあごへ移植した。
まだ経過観察中だが、骨の再生が進んでいることが磁気共鳴画像装置(MRI)で確認された。57歳女性は左右両あごの骨再生が必要だったため、本人の了解を得て片側のみ幹細胞を移植、反対側は従来の治療をした結果、移植した側の回復が早かった。
厚労省は「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」を定め、移植時の安全管理や研究審査態勢を厳しく規定。指針外で研究を進める大学もあるが、今回の治療は歯科分野で初めて指針に沿って行われたという。