報告・内容紹介

PHP政策懇談会 米中関係、中国を取り巻く北東アジアの国際環境について

 オバマ政権は、発足当初から中国との関係を重視してきましたが、最近ではCOP 15での対立、グーグル問題、台湾への武器売却、オバマ大統領とダライ・ラマ14世との会談など、米中間に暗雲が立ちこめはじめています。また中国の成長は、中国人自身の中国観に変化をもたらしたのではとも言われています。
 弊社では、中国の著名な研究者である時殷弘教授をお招きし、中国とアメリカ、日本、韓国、北朝鮮との関係などについてお話いただきました。講演後は参加者との間で活発な質疑応答が行われ、会は盛況のうちに終了いたしました。

【講演要旨】
 2008年にアメリカから起こった金融危機は、ポスト冷戦時代の終わりを告げる歴史的転換点だった。アメリカは巨大な財政赤字を抱え、中国は巨額の米国国債を保有し、アメリカは中国への依存を強めることになった。また、金融危機の心理的影響も大きく、とくに中国でその傾向が強くみられる。それは、自由主義や資本主義が挑戦を受けている、という感覚である。かたや中国が著しい経済成長を続けていることから、中国の指導者らは「中国の特色ある」基本行動様式により確信をもつようになり、社会正義や民生、環境保護を代償としてGDPの拡大を追求するだけではいけないと考えるようになっている。
 ケ小平の24文字方針(※中国は力をつけるまでは冷静に観察・行動し、控えめな姿勢を保ち、能力を見せびらかさず、やるべきことを行う、という外交方針)が変わったのではという声があるが、今はまだ変わっていない。だが、将来的に変わる可能性はある。また世界の側も、中国に「控えめ」ではなくより積極的に責任を果たすよう求めるようになり、「控えめ」の姿勢をむしろ責任逃れと非難するようになった。中国は、今後も決して他国に強制・干渉することはないが、他国からの干渉を強く拒否するようになったという点では変化がみられる。中国が決して妥協しない問題の一つは台湾、チベット、ウイグルなど国家の統一に関わる問題、二つ目は人権問題、そして三つめは中国人自身もまだ気づいてないかもしれないが経済問題である。経済が不安定化すれば、その影響は政治・社会にまで及ぶ危険があるからである。

 北朝鮮は、中国にとっても非常に難しい問題である。中国の指導者は北朝鮮の行いに満足していない。だた、中国は北朝鮮が混乱に陥ることに強い懸念を抱いており、北朝鮮が中国に対し敵対的でなく、安定した状態であることが自国の利益につながると考えている。核問題については、北朝鮮の経済改革を進めて、核保有の意義を低下させることが重要である。
 韓国とは、1992年に国交を樹立してから、人の交流も経済関係も増加の一途を辿っている。だた、中韓関係は、礼儀正しく友好的なものではあるが、まだそれ以上のものには至っていない。韓国では中国に対する脅威感が強く、北朝鮮のレジームが崩壊すれば中国はどうするのかということを心配している。中国の指導者らが「中国は朝鮮半島の平和的統一を望む」と繰り返し述べても、なかなか韓国人の懸念を払しょくすることができない。韓国と中国で行われた世論調査の結果は、両国国民の互いに対する感情があまり良好ではないことを示している。
 日本との関係では、最近では特に重要な発展は見られない。ただ、両国の指導者は、日中間に対立や衝突を起こさないよう非常に慎重になっている。中国は東アジア共同体のアイデアを歓迎している。特に金融危機は、アジアの経済統合を考えるチャンスであり、日中は協力して多国間協力を進めていくべきである。そのためにも民主党政権は早期に普天間移設問題を解決する必要がある。というのも、日本外交は今この問題に多くの労力を取られすぎており、アジア地域協力に取り組む余裕がないからである。
 1972年と1978年に日中間で合意された枠組みは重要だが、30年が経ち両国を取り巻く環境が変わったため、それだけでは不十分になっている。日中は新たな枠組みを築く必要があり、それには(1)対立をコントロールする危機管理、(2)政治が他の分野に影響を及ぼすのを減少させる仕組み、(3)多国間協力発展の促進、(4)北東アジアの安全保障枠組、が含まれるべきである。
文責:(株)PHP総合研究所

 日時:2010年2月12日(金)15:00−17:00
 場所:(株)PHP総合研究所東京本部 特別会議室
 主催:(株)PHP総合研究所


プログラム
15:00〜15:45  「米中関係、中国を取り巻く北東アジアの国際環境について」
時殷弘(中国人民大学国際関係学院教授)
15:45〜17:00  質疑応答

講師紹介
時殷弘(中国人民大学国際関係学院教授、同大学米国研究センター主任)
1951年、江蘇省生まれ。専門は国際関係理論思想、国際関係史、戦略理論、国際政治、米中関係。中国の学会理事を歴任。論文・著書多数。2003年に対日新思考(中国にとっては、その置かれている国際環境から、日中接近を図ることが中国の戦略的利益であるという主張)を提唱した。

モデレータ
前田宏子(まえだ・ひろこ) (株)PHP総合研究所国際戦略研究センター主任研究員

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