「禁輸否決」でもくすぶる火種──資源確保の切り札になるか
サバにマグロを産ませる秘策
(週刊朝日 2010年04月02日号配信掲載) 2010年3月26日(金)配信
「あと7〜8年で、サバが安定してマグロを産むようにできると思います」
吉崎さんの長年の夢がかなう日は近い。
加えて、吉崎さんたちの方法のもう一つの特徴は、作った赤ちゃんを人工養殖で親にするだけでなく、海に放流して天然マグロとして育てるところにある。人工養殖は重要な技術だが、巨大なマグロを狭い生け簀で育てる以上、エサの残りや排泄物などで周辺環境に悪影響が出ることは避けられない。マグロは増えても、エサのサバなどが将来的に枯渇する心配もある。
「僕たちは遺伝子操作などの複雑な技術は一切、使っていません。サケの放流のように、人間が取る分だけ増やせればそれでいい」
これが吉崎さんたちの基本姿勢だ。マグロの展示と飼育に取り組む東京都葛西臨海水族園の松山俊樹教育普及係長もこの点を高く評価する。
「大西洋のクロマグロ漁は、産卵のために地中海に集まるところを狙うので、その影響が太平洋よりも深刻だったとも言われています。ならば吉崎さんの方法で稚魚を放流してやることで、マグロの数を回復できる可能性は大きいでしょう」
多数派工作までしてワシントン条約でのマグロ禁輸を回避し、赤松広隆農水相ら関係者はホッとしているようだが、これで問題が解決したわけではない。むしろマグロの危機はより深刻化する可能性が高い。トロを守るためにはまずサバから。食べるだけではなく、もっと学ぶことこそが、今の日本人には求められている。
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