「禁輸否決」でもくすぶる火種──資源確保の切り札になるか
サバにマグロを産ませる秘策
(週刊朝日 2010年04月02日号配信掲載) 2010年3月26日(金)配信
と、吉崎さん。赤ん坊のうちにマグロの卵原細胞や精原細胞を注入しておけば、そのサバが大人になるとマグロの卵や精子を作ってくれる。不妊処理をしてサバ自身の卵や精子を作らないようにしてから注入すれば、そのサバはひたすらマグロの卵と精子だけを作り続けることになる。
とはいえ、体長5ミリにも満たないサバの赤ちゃんの腹のどこに卵巣や精巣があるか、わかるのだろうか。そもそも、サバの赤ちゃんの性別はどうやって判別するのか。間違ってオスの赤ちゃんに卵原細胞を入れたりしたら、大変なことになりはしないか。
「そこも大丈夫」
吉崎さんは再びニッコリ笑った。実はマグロの卵原細胞も精原細胞も、自分で卵巣や精巣を探して移動する能力を持っている。小さな注射針で腹に入れてあげれば、あとはアメーバのようにサバの体内を動いていく。しかも、卵原細胞が精巣にたどり着けば精原細胞に、精原細胞が卵巣にたどり着けば卵原細胞に、きちんとあとから変化するのだという。吉崎さんは言う。
「魚類の生殖細胞にはもともと、こうした高い柔軟性があるようなのです」
まさに生命の神秘としか言いようがない。吉崎さんたちのこの発見は06年に米国の学会誌に掲載され、大きな反響を呼んだ。
この原理を使って7年前、淡水魚のヤマメにニジマスの卵や精子を作らせることに成功。05年からは、今度はサバにマグロを産ませる研究に着手した。
当初、サバへの移植がなかなか成功しなかった。マグロは南の魚だが、日本のサバは北の魚だ。サバが育つ水温の低さが、マグロの細胞に影響している可能性があった。そこで南方にすむ別の種類のサバを使ってみたところ、昨年9月、サバの体内にマグロの精原細胞がきちんと根付くところまでこぎつけた。今春から、いよいよサバにマグロを産ませる段階に入る。
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