敦盛の最期4

 熊谷涙を抑へて申しけるは、「助けまゐらせむとは存じ候へども、味方の軍兵雲霞のごとく候ふ。よも逃れさせたまはじ。人手にかけまゐらせむより、同じくは直実が手にかけまゐらせて、後の御孝養をこそつかまつり候はめ」と申しければ、「ただとくとく首を取れ」とぞのたまひける。熊谷あまりにいとほしくて、いづくに刀を立つべしともおぼえず、目もくれ心も消え果てて、前後不覚におぼえけれども、さてしもあるべきことならねば、泣く泣く首をぞかいてんげる。
 熊谷が涙をおさえて申したのには、「お助け申し上げようと存じましたが、味方の軍勢が 雲霞のようにやってきています。きっとお逃げにはなれないでしょう。他の者の手におかけ申し上げるより、同じことなら直実の手におかけ申して、後世のため のご供養をいたしましょう」と申したところ、「ただもう早く早く首を取れ」とおっしゃった。熊谷はあまりにいたわしく感じ、どこに刀を立てたらよいかもわ からず、目も涙にくもり心もすっかり失せて、どうしていいかわからなくなったが、そうしてばかりもいられず、泣く泣く首をかき切った。
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