兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故(05年4月)で、神戸第1検察審査会は26日、神戸地検が不起訴としたJR西日本歴代社長の井手正敬(74)▽南谷昌二郎(68)▽垣内剛(65)の3氏について、業務上過失致死傷罪で「起訴議決」したと公表した。改正検察審査会法に基づき、神戸地裁が指定する弁護士が検察官役となり、3人を強制的に起訴する。元常務鉄道本部長の山崎正夫前社長(66)は同罪で既に地検が起訴しており、乗客106人が死亡したJR史上最大の惨事は、社長経験者4人が刑事責任を問われる事態となった。
昨年12月の検察の不起訴を受けた再審査による議決は同日付。3人は社長かつ「総合安全対策委員会」(後に総合安全推進委員会)委員長として、事故防止を統括する立場だったと認定。同委員会で、自動列車停止装置(ATS)が整備されていれば防止できた事故例として96年のJR函館線脱線事故が挙げられていたほか、カーブ変更や高速走行が可能な列車を大量投入したことで現場は特に危険性の高いカーブとなったのに、ATSを整備する注意義務を怠ったため、事故が発生したと指摘した。3人について「現場の危険性を認識していなかったとは到底考えられない」とも述べた。
再審査では、同地検の担当検事と遺族双方から意見を聞いた。審査員11人中、起訴議決に必要な8人以上が起訴すべきだと判断した。地裁から指定された弁護士は、県警や地検の捜査書類などをもとに起訴状を作成。05年4月30日に106人目の乗客が亡くなったため、公訴時効は今年4月30日となり、同日午前0時までに3人を起訴するとみられる。今回の議決で同検審は「議決時期が公訴時効完成後になることは絶対回避する必要がある」としている。
地検は昨年7月、事故を唯一、予見できる立場だったのにATSを設置しなかったとして、カーブ付け替え当時に常務鉄道本部長だった山崎被告を在宅起訴。井手元社長ら3人は「安全管理の権限を山崎被告に一任していた」などとして不起訴にした。このため20遺族35人が8月、起訴を求めて神戸第1検審に審査を申し立て。同検審は10月、地検に3人の起訴を求める「起訴相当」を議決したが、地検は12月、3人を改めて不起訴にした。
検察審査会の審査を巡っては今年1月27日、明石歩道橋事故で神戸第2検審が、当時の県警明石署副署長について起訴議決し、強制的に起訴されることが決まった。【吉川雄策】
毎日新聞 2010年3月26日 16時39分(最終更新 3月26日 22時45分)