地デジの周波数を削減して携帯に割り当てよ
衛星によるデジタル化は、技術的に合理的であるがゆえに、政治的には不可能である。衛星で全国をカバーすれば、在京キー局の番組を垂れ流して「電波料」をもらっている地方民放局のビジネスが成り立たなくなるからだ。民放連に加盟している127社のうち、100社以上が地方局だから、彼らの意見は圧倒的に強い。売り上げでは東名阪の20局で7割以上を占めるのだが、国連で小国の意見が通りやすいのと同じだ。
民放連が衛星デジタル放送に反対する理由は「全国一律でローカルサービスができない」ということだが、アメリカではローカル局が通信衛星のチャンネルで独自放送を行なっている。県内に中継局を張りめぐらすコストより安いからだ。そもそもアメリカでは、視聴者の9割はケーブルテレビで見ているので、先週も紹介した全米ブロードバンド計画のように、地上波への電波割り当てを減らすべきだという意見も多い。
日本では、今のペースでいくと来年7月の段階で少なくとも500万世帯以上の家庭で突然、テレビが消え、パニックになるだろう。それに対して100億円以上の税金を投入してチューナーを配る計画も進められているが、これと衛星放送は重複している。最初からデジタル化は衛星でやればよかったのである。
実質的に7チャンネルしかないテレビのために240MHzもの帯域を占有し、数千万チャンネルの次世代携帯には40MHzという周波数割り当ても異常である。アメリカで提案されているように、SFNという中継技術を使えば、テレビ1チャンネルあたり6MHzですむので、最大50MHzもあれば十分だ。2012年以降、電波を再配置するとき、テレビの帯域を50MHzに減らし、次世代携帯に250MHz割り当てれば、日本は世界最先端のブロードバンド大国になるだろう。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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