「患者さんに感謝してもらえるよう日本で働きたい」。26日、看護師国家試験の合格者が発表され、日本で研修中のインドネシア人男女各1人とフィリピン人女性1人の計3人が合格し、それぞれ夢を膨らませた。経済連携協定(EPA)に基づき来日した候補者として初の看護師誕生だ。だが、日本語がネックとなり針の穴のような狭き門。多くが不合格で帰国すると国内外で批判が高まりそうだ。【有田浩子、岡田英、古賀三男】
合格したのは、インドネシア人のヤレド・フェブリアン・フェルナンデスさん(26)=新潟・三之町病院▽リア・アグスティナさん(26)=同▽フィリピン人のラリン・エバー・ガメドさん(34)=栃木・足利赤十字病院。
試験は先月21日にあり、両国の看護師候補者のうち約7割の254人が受験した。日本人を含めた看護師の全国平均合格率は89・5%だった。
「すっごくすっごくうれしいです」。会見したアグスティナさんは両手を大きく広げて喜んだ。母国の弟と妹にメールで報告したという。フェルナンデスさんも「病院の人の応援があって合格できた。感謝の気持ちを返したい」と話した。2人は母国で看護師を2~3年経験し08年に来日した。午前中はベッドシーツの交換などの仕事をし、午後に約4時間、病院スタッフ1人がついて試験勉強や日本語の指導を受けた。
昨年2月の国家試験では受験した82人が全員不合格で、来日3年以内に合格できなければ帰国となる。第1陣(08年8月)のチャンスはあと1回だ。アグスティナさんは「みんな一生懸命勉強するので3年の期限を延長してくれませんか」と話した。
フィリピン人で唯一合格したガメドさんも母国で8年の看護師経験がある。毎日、深夜1時過ぎまで猛勉強し漢字の習得などに励んだ。「多くの患者さんに感謝してもらえるように精いっぱい働きたい」。4月に日本赤十字社の正式職員として採用予定で「来年は大勢の友人が合格することを祈っています」と話した。
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EPAの受け入れをめぐっては、現場の病院・施設まかせで「日本語支援が不十分」(平野裕子・九州大准教授)という指摘があった。インドネシアのマルティ・ナタレガワ外相も今年1月、岡田克也外相との会談で「漢字が難しい試験を改善してほしい」と求めている。
国は昨年から日本語学習教材の開発や過去の試験の翻訳を始め、2010年度は今年度に比べ10倍の予算(約9億円)が計上された。ただ「褥瘡(じょくそう)(床ずれ)」など難しい用語の言い換えの検討を始めたばかりだ。
安里和晃・京都大准教授(移民政策)は「本国では一定のスキルがあるのに、不合格で無資格のまま大量帰国ということになれば、EPAの制度そのものが問われかねない」と話す。
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■ことば
2国間の経済連携を強化するための協定で、看護師・介護福祉士候補者の受け入れも含まれる。インドネシア人候補者は08年8月から、フィリピン人は09年5月から受け入れ、合わせて看護師候補者約360人、介護福祉士候補者約480人が来日。半年間の日本語研修の後、日本の病院・施設で働きながら国家資格取得を目指す。介護福祉士は実務経験3年が必要で1回しか受験できない。
毎日新聞 2010年3月27日 東京朝刊