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「ベトナム原発」日本が巻き返す道

かつての盟友ロシアが、潜水艦売却で油揚げをさらった。中国と「東アジア共同体」にクサビ。

2010年3月号

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ズン首相の訪ロ時に、ロシア国営原子力企業ロスアトムがベトナムの電力会社EVNとの間で、ベトナム初の原子力発電所建設に協力する枠組み合意書に調印しているのだ。それはベトナムの原発建設受注をめざす日本にとって、フランス以外にも強敵が出現したことを意味していた。

しかし、昨年末、新興国での原発建設ビジネスの獲得競争の初戦ともいうべき、アラブ首長国連合(UAE)で、日立・GEの日米連合が、伏兵の韓国企業連合体に手痛い敗北を喫した(本誌2月号「隗より始めよ」参照)。東アジア共同体構想を掲げる鳩山政権にとっても、このベトナムの案件は何としても負けられない戦いだった。それが連敗である。

もはや日本は万事休すなのか。「軍事援助を絡められたら勝ち目はない」とサジを投げるのか。いや、まだ挽回のチャンスはある。

ただし、それには日本政府が高度な国内調整と外交を展開する必要がある。まず日本政府の主導で、ともすれば足を引っ張り合う東芝、日立、三菱重工3社の利害を調整し、原発オペレーターとして東京電力を加えた「オール・ジャパン」体制を構築することだ。提携先のウェスチングハウスを東芝に買収されて以来、フランスの国営原子力企業アレバとの提携に走った三菱重工と東芝の反目は、国益を損なうだけだ。

そしてもうひとつ、奥の手が必要だろう。ベトナム原発第1期工事の受注を確実にしたロシアに戦略提携を呼びかけることだ。昨年11月に来日したベトナムのズン首相のコメントに耳を澄ますがいい。11月8日付の日経1面に掲載されている。

ズン首相は原発発注について「原子力発電の分野では、日本もフランスも大国だと認識している」と述べたうえで、パートナー選考の条件として、①先進性と安全性で検証済みの高い技術を持つ、②資金支援を実施できる、③核燃料の安定供給が可能、④安全で効率的な原発運転に向けた人材育成面で協力できる――の4点を挙げている。

フランスはアレバを中心に、プラント建設から核燃料供給、使用済み核燃料の再処理までの一貫したサービス供給が可能だが、日本の原子力産業には、核燃料供給や使用済み核燃料の再処理といった核燃料サイクル分野で国際競争力のあるサービスを展開する能力がない。つまり日本単独では③の条件を満たせない。

とすれば、今後、第2期工事(原発2基建設)の受注競争もあるベトナムの原発案件では、世界最大のウラン濃縮能力を持つロシアとの戦略的提携が、日本の原子力産業にとって唯一最良の選択肢と思える。

日ロが組めば「近攻遠交」

勝ったロシアの側にも、12年にウラジオストックで開催する予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に、政治・経済両面でアジア太平洋地域への関与を深めていきたいという事情がある。

今回のベトナムへの潜水艦売却と原発建設の受注もその延長線上にあり、そこには「アジア太平洋地域における戦略的パートナーを中国以外に求める」との政治的シグナルも含まれていよう。ロシアにも「近攻遠交」の地政学的戦略があるのだ。

外交に疎い鳩山政権も、米中間の等距離をめざすのであれば、少しは中国の肝を冷やす「近攻遠交」思考に立ったらどうか。

中国の頭越しにベトナムの原発建設で、日ロが組む。ウラジオAPECを2年後に控えた今、このような戦略提携の呼びかけに、ロシアが応ずる可能性は十分にある。

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