「ベトナム原発」日本が巻き返す道
かつての盟友ロシアが、潜水艦売却で油揚げをさらった。中国と「東アジア共同体」にクサビ。
2010年3月号
モスクワを訪問したベトナムのグエン・タン・ズン首相(左)と握手するロシアのプーチン首相
AP/Aflo
「北方領土の日」の2月7日、都内の会合に出席した鳩山由紀夫首相は、北方領土問題の解決に改めて意欲を示したが、首相が掲げる「東アジア共同体」構想の文脈でロシアが語られることはまずない。なによりもアジア太平洋地域での同国のプレゼンスの低さに起因するのだが、そのロシアが注目すべき一手を打ってきた。
その僅か2日後の2月9日付の日本経済新聞朝刊が1面トップで「原発受注 日本、ベトナムでも敗退」と報じたのだ。ベトナムは南部ニントアン省の2カ所で計4基の原発の建設を計画中だが、ロシアがその第1期工事(原発2基)の受注を確実にしたという。この案件は、日本とフランスが最有力候補と見られていたが、割って入ったロシアに「油揚げ」をさらわれたのだ。
日本の関係者には衝撃だった。だが、この逆転劇には予兆があった。
昨年12月15日、ベトナムのグエン・タン・ズン首相がモスクワを訪問して、ドミトリー・メドベージェフ大統領、ウラジーミル・プーチン首相と会談した。そのあとズン首相は記者団の前で、潜水艦、航空機などのロシア製兵器を購入する契約を結んだと発表したのである。
ベトナムは中国海軍に対抗
具体的な中身は明かさなかったが、報道によると、20億ドル相当のキロ級ディーゼルエンジン型潜水艦6隻を含む大型契約という。12月17日付のサウスチャイナ・モーニングポスト紙によると、35年前のベトナム戦争終結以降、ハノイが行った最大の兵器購入である。ベトナムが潜水艦を保有するのは史上初となる。
また同時期、ベトナムのフン・クアン・タン国防相も米国、カナダ、フランスを歴訪。ズン首相がモスクワでロシア製兵器購入を発表した15日には、ワシントンでロバート・ゲーツ国防長官と会談している。国防相の訪米は03年以来2回目である。
ベトナムがかつての同盟国のロシアを筆頭に、冷戦時代に戦火を交えた米仏などとも軍事分野での関係強化に動き出した背景には、急拡大する中国の海軍力への懸念がある。
ベトナムと中国はともに、南シナ海の南沙諸島などの領有権を主張し、対立している。ここ数年は小康状態にあるが、中国は着々と海軍の軍備を増強しており、ベトナムも本格的な海軍力の強化に乗り出すことになったのだ。
そんなベトナムの要請にいち早く応えたのが、冷戦時代にはカムラン湾を租借していたロシアだった。ソ連軍のカムラン湾租借には当時、フィリピンに駐留していた米軍に対抗する意味合いがあった。が、米軍もフィリピン側の要請で91年にクラーク空軍基地とスービック海軍基地から完全撤退、ロシアも02年にカムラン湾の租借契約を打ち切っている。
それがベトナムに潜水艦6隻を売却するとともに、それに伴う海軍基地や補修・メンテナンス施設、通信センターを建設するなどのインフラ整備のほか、ベトナム人専門家の訓練まで請け負ったのだ。ロシアは再びベトナムの安全保障に深く関与することになった。
ロシアによるベトナムへの潜水艦売却は、「東アジア共同体」構想を掲げる鳩山政権にとっても、無視できない意味があった。
まず、日本が石油輸入の90%近くを依存する中東からの輸送ルートがこの南シナ海を経由するという意味で、同海域の安定維持がシーレーン防衛の観点から重要なのは言うまでもないが、それだけではない。
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