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朝鮮学校 縮む基盤【山口と半島(上)】

2010年03月21日

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初級部2年生の教室。子どもの数は少ないが、風景は日本の小学校のようだ=下関市の山口朝鮮初中級学校

  日韓併合から今年で100年。日本による朝鮮半島の植民地支配はその後の強制連行などの歴史を経て、戦後、日本にとどまった多くの「在日コリアン」を生んだ。併合に先立つ1905年に下関と釜山を結ぶ「関釜連絡船」が就航し、現在は関西圏に次いで在日の人々の割合が高く、地理的にも、歴史的にも結びつきの強い県内から、日本と朝鮮半島とのつながりを見た。
(この連載は井上亮が担当します)

  ◆ 在籍者 ピーク時の数%に

  「きっと飾られているのだろう」と記者は思い込んでいたが、そこに、北朝鮮の故金日成(キムイルソン)主席と金正日(キムジョンイル)総書記の肖像画はなかった。下関市神田町2丁目の山口朝鮮初中級学校初級部2年生の教室。7人の子どもたちが算数の授業で九九の問題を解いていた。日本の小学校で使われるのと同じ計算ドリルもこなし、早く終わった子どもが、他の子どもに教えている。教室や廊下に掲示された「先生の話をしっかり聞きましょう」といった標語がハングルで書かれているほかは、日本の小学校と変わらない風景だ。

  在日1世が子どもに朝鮮語を学ばせるため設立した「国語教習所」がルーツの朝鮮学校だが、今では日本社会で生きるための教育の場へ性格を変えてきた。とはいえ、在日社会の世代交代が進み、社会や家庭では朝鮮の歴史や言葉を十分教えられなくなり、朝鮮学校が民族教育の唯一の受け皿になりつつある。

  「第一目標は民族的アイデンティティーの確立」と、同校の鄭(チョン)万石(マンソク)校長は言う。同校では、「日本語」の授業以外は、ほぼ朝鮮語で行われる。初級、中級の9年間は一貫して国語(朝鮮語)の授業時間が一番多い。歴史も重視され、「正しい歴史認識」を持つことも目標に挙げられる。だが、鄭校長は「決して反日教育をしているわけではない。自分のルーツを明確にして、在日として日本の地域社会に貢献できる人材を育てている」と説明する。

  近年、そんな朝鮮学校の基盤縮小が全国的に進む。少子化に加え、子どもを日本の学校に通わせる保護者が増え、学齢期の在日コリアンの約8割が日本の学校に通学しているともいわれる。県内でも、日本の高校に当たる高級学校が下関市に唯一あったが、2004年に休校。初中級学校は、徳山校が昨年休校、宇部校は08年に下関校と統合し、1校だけとなった。現在の初中級部の在籍者は30人で、ピークだった1970年代後半に比べると20分の1以下だ。

  経営の問題も切実だ。朝鮮学校は学校教育法上、外国人学校などと同様の各種学校とされ、国庫補助が受けられない。下関市は学校に20万円と子ども1人あたり1千円を独自に補助。県も1人当たり5万円を補助しているが、私立中学の1人あたり約26万円との差は大きい。同校によると、年間運営費約5千万円のうち補助金は5%にも満たず、大部分はOBや保護者の寄付金、バザーの収益などに頼らざるを得ないという。

  保護者の負担も小さくない。同校オモニ会代表の白(ペク)正美(チョンミ)さんは、中級部3年の子どもが4月から北九州市の高級学校に進学。現在高級部2年の兄と合わせて学費や交通費で年間約100万円の出費が見込まれる。それでも、「近所の公立高校に行かせれば経済的にはどれだけ楽かと思うが、祖父母から受け継いできた民族の誇りを子どもにも伝えたい」と話す。

  それだけに、高校無償化制度をめぐる朝鮮学校除外問題には、高級学校のない県内でも、多くの在日の人たちが論議の行方に注目する。政府は無償化の対象から除外する方針を固めたが、同校を運営する山口朝鮮学園の金(キム)鍾九(ジョング)理事長は「行政の支援は民族教育の生死にかかわる問題。これまで得てきた市民権を剥奪(はくだつ)されたような感じだ。すべての子どもには等しく学ぶ権利があるはず」と訴えている。

  ☆キーワード 「朝鮮学校」

  文部科学省によると、昨年5月現在、日本の幼稚園から高校にあたる学校が全国で計76校(うち休校11校)あり、在籍者は約8300人。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響下にあり、朝鮮の歴史や地理などを含むカリキュラムを組む。朝鮮籍以外に、韓国籍、日本籍の子どもも受け入れる。

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