13万8,000人と全国最多の生活保護受給者を抱える大阪市。
来年度予算は2,863億円に上り過去最高です。
VOICEでは、これまで生活保護費を狙った貧困ビジネスの実態や生活保護の申請者が他都市から大阪市に流入してくる問題などについてお伝えしてきました。
膨れ続ける大阪市の生活保護費をどう見るのか。
まさに今、予算案の審議をしている大阪市議会の議員89人に緊急アンケートを実施し、およそ9割の80人から回答を得ました。
まず、大阪市での申請者のうち、他の自治体が切符を渡して流入を後押ししているいわゆる”片道切符”問題について尋ねました。
その結果、片道切符問題を「知っている」と答えた議員は25パーセント、「聞いたことがある」が74パーセントでほぼ全員が認識していました。
<民主党・市民連合 神原昭二幹事長>
「同じ自治体の職員から大阪へ行きなさいと、しかも切符渡しますからねと言うのはルール違反以前の問題かなと」
片道切符問題がクローズアップされる背景には生活保護費の自治体負担分を押し付け合いがあるといわれています。
現行では4分の3を国、4分の1が自治体負担です。
これについて市議に尋ねたところ、1人を除く全員が、国が全額負担すべきだと答えました。
<公明党 石原信幸幹事長>
「憲法で保障された生活保護ということで生活保護法にのっとって行う限り、やはり国が責任を持って行うべきではないか」
平松市長も先月25日、「生活保護費の全額を国が負担すれば片道切符に象徴される自治体間の問題は起こらない」と厚生労働省や民主党の小沢幹事長に実現するよう求めています。
しかし国は、国と地方の負担割り合いなどを今後協議していく方向性を示すに留まっています。
<大阪市 平松邦夫市長>
「今の財政状況から軽々に国としても全額国庫だろうと言えないのは分らないではないが、私が市長である限りこれを言い続けたい」
生活保護費が財政を圧迫し、まさに非常事態といえる大阪市が注目しているのが「有期保護」です。
平松市長は先週の議会で、生活保護を受給できる期間を3年から5年位までとする「有期保護」の導入について検討するべきだという考えを示しました。
<大阪市 平松邦夫市長>
「働ける能力のある人については就労自立に向けた目標を持ってもらうことが大事であるし、3年から5年程度の期限を設けるのがある意味当たり前のこと」
去年3月以降、働けるけど仕事がない、いわゆる稼働年齢層を積極的に受給者として受け入れるよう自治体に通知した国。
派遣切りが社会問題化し、仕事や住まいを失った人たちの支援が目的です。
こうした人たちに対する市議の考え方は分かれました。
稼動年齢層への「有期保護」導入など生活保護を受ける基準を、「厳格化すべき」は38パーセント、「現行のまま運用すべき」が44パーセント、「今より門戸を広げるべき」も5パーセントいました。
「厳格化すべき」と答えた議員の中には…。
「ペナルティも含め本当に必要な方のための制度に改正すべき」や、「稼働年齢層と高齢者は明確に区別すべき」という意見がありました。
<自由民主党・市民クラブ 高野伸生幹事長>
「現金給付のあり方、そして金額の妥当性、そして期間の妥当性、そういったもの全て制度として根本から見直さなければならない」
一方、「門戸を広げるべき」と答えた議員は、「現実に仕事がない中で期限を設けるやり方は「本末転倒」という声もありました。
<日本共産党 渡司考一幹事長>
「現状をちゃんと見てない。20社も30社も面接を受けてなかなか仕事に就けない人をその段階で保護を打ち切ったらどうなるかーということはもう目に見えてますよね」
「有期保護」に関しては諸外国での導入例もありますが、生活保護に詳しい専門家は―
<生活保護制度に詳しい・首都大学 岡部卓教授>
「メリットとデメリット、両方あると思う。メリットは一定期間を設けることで労働のインセンティブ(動機づけ)が働く。ただし全ての人がそれが出来る訳ではない。個別性に立脚して考えた時、期限をつけるというのは貧困者の実態に即していない」
また、生活保護の門戸拡大に大きな影響を与えた「年越し派遣村」村長の湯浅誠さんも大阪市が有期保護を導入しても財政負担は軽減されないと話します。
<湯浅誠さん>
「もっと締め付けて、もっと厳しくしてどんどんこぼれていくという方向に向かって行くと、結果的に社会に対して高くつく。でも生活保護に過度の負担がかかっているのも事実なんで、その手前でどうやって止められるかをみんなで知恵を絞るというのを建設的な方向でやっていければ」
これについて街の声は―。
<街の声>
「大いに賛成です。きちんとした管理を税金を払ってる立場からすれば求めたい」
「一時的に(保護費を)もらって終わりになる。『じゃあ後は死ねばいいってこと?』と言われたらそんなん言えないしね。経済が活性化すれば働く気も起こるしすべてが解決する話ですけどね」
来年度予算の生活保護費2,863億円のうち、4分の1の716億円が大阪市の負担です。
生活保護制度の矛盾や課題のしわ寄せを受けるなか、国民的な議論が必要な時期にきています。
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