インターネット上の百科事典「ウィキペディア」の日本語版が転換期を迎えている。誰もが自由に投稿できる米国発祥の思想から、飛躍的にページ数や閲覧数を増やしてきた。今は量的成長が一段落し、管理者不足やいたずらの増加など「質的」な向上の壁に直面している。
■削除するべき書き込みが1割
東京・秋葉原に実在するメードカフェ名のページ――「宣伝」として削除。
実在の女性のプロフィルを勝手に掲載したページ――「いたずら」として削除。
関東地方の40代男性が最近、「削除」したウィキペディアのページだ。投稿など編集作業は誰でもできる一方で、ページの「削除」や編集を止める「保護」など特別な権限を持つ管理者がいる。男性は「海獺(らっこ)」というアカウント名で活動する、日本語版に63人いる管理者の一人だ。
管理者はネットでの信任投票で選ばれる。職業はIT関連など様々で、実は大半はお互いに素顔を知らない関係だ。男性は2007年に就任。仕事の合間にパソコンに向かうのは1日2時間ほど。過去には8時間費やした日も。これまでの作業回数は2万2千回。報酬のないボランティアだ。悪意のある書き込みには即時に対応しなくてはならない。最近は、芸能人のページなどで犯罪予告も増えており、男性は警察への通報も一手に引き受ける。
日本語版は01年5月に立ち上がり、03年6月に1万ページ、08年6月には50万ページを超えるなど急激に成長した。閲覧数も増える一方、根拠のない記述や誹謗(ひぼう)中傷も激増している。平日の編集回数は1万3千回を超えるが、10%程度がいたずらなど削除の対象だ。男性は「処理すべき作業量から、少なくとも管理者は100人は必要」と嘆く。