きのうの電子出版シンポジウムの後の懇親会で話題になり、すでにツイッターなどでも噂になっているので、複数の編集部員から聞いた事実関係だけを(固有名詞は略して)記録しておく:
週刊ダイヤモンドの4月6日発売号の特集は「電子書籍と出版業界」(仮題)という60ページの企画だった。私は1ヶ月ぐらい前に担当者から相談を受け、企画の内容や私のビジネスについても何度か話をした。メインは電子書籍の話で30ページぐらいだが、その背景として出版不況の現状や出版社・取次などの対応を取材するという話だった。
ところが先週の金曜になって、担当者から「あの特集は没になりました」という連絡を受けた。なんと60ページの特集がすべて中止になったというのだ。彼の言葉によれば「今回のように、いったんやると決めて、特集の締め切りが2週間後に迫っているのにストップしたことは、ダイヤモンドの歴史上、過去に一度しかない」という。
彼によれば、通常は部員や副編集長が出した企画をデスク会議で話し合って最終的には編集長が決定し、局長などはこの意思決定には関与しない。ところが今回は、特集が決まったあとで取締役から内容について「質問」があり、それを受けて編集長が中止を決めたという。その理由は、編集長の説明では「電書協の件や講談社との関係」とのことだった。
電書協とは大手出版社でつくった「電子書籍協議会」のことで、24日の設立総会では31社の経営者がひな壇に並んで、野間代表理事(講談社副社長)を選出するセレモニーが行われた。取材した別の記者は「外資に対抗してみんなで仲よくやろうという話をしただけで、あの調子では何年たっても何も決まらないだろう」といっていた。
担当者は「電書協では何も決まらないし、講談社の圧力なんかない」と編集長にも説明したが、編集レベルではくつがえせない経営判断だとのことだった(社長が関与したかどうかは不明)。この特集については取次も取材に応じており、外部の圧力ということは考えにくい。営業サイドの「自主規制」の疑いが強い。
もちろん、この種の問題を取り扱うことにはリスクがともなうので、編集部でも事前に協議は行われ、再販問題などの取り扱いは慎重にする方針だった。途中の段階では、出版流通の部分を落として電子書籍の30ページだけやれという話もあったようだが、これは現場が「それではかえって問題の隠蔽になる」と反対し、全面的に没になったという。
以上が確認できた事実関係で、再来週の週刊ダイヤモンドの特集は「ドラッカー」に差し替えられるもようだ。これは一週刊誌の内紛といえばそれまでだが、見過ごせない問題を含んでいる。それはこの特集の入口は電子書籍だったが、本質的なテーマは日本で書籍の電子化が進まない背景に再販制度や委託販売などの不透明な流通機構がある、という当事者の「内部告発」でもあったことだ。
同じような問題は日本の多くの業界にあり、特にメディアに多い。当ブログでも取り上げてきた電波利権や、いま話題になっている記者クラブ、またこのダイヤモンドの特集のテーマだった再販など、枚挙にいとまがないほどだ。それはこの業界が「互いに他のメディアを批判しない」という情報カルテルを結んでいるからだ。
こうしたタブーを破って電波利権などのテーマに挑んできた週刊ダイヤモンドも、自分の業界のタブーからは自由ではなかったわけだ。これによって営業は救われるかもしれないが、ジャーナリズムとしての週刊ダイヤモンドの信用は決定的に失われるだろう。ただ考えようによっては、この事件は、日本の企業でなぜイノベーションが生まれないのか(あるいはつぶされるのか)を、特集記事よりはるかにわかりやすく示してくれたような気もする。
週刊ダイヤモンドの4月6日発売号の特集は「電子書籍と出版業界」(仮題)という60ページの企画だった。私は1ヶ月ぐらい前に担当者から相談を受け、企画の内容や私のビジネスについても何度か話をした。メインは電子書籍の話で30ページぐらいだが、その背景として出版不況の現状や出版社・取次などの対応を取材するという話だった。
ところが先週の金曜になって、担当者から「あの特集は没になりました」という連絡を受けた。なんと60ページの特集がすべて中止になったというのだ。彼の言葉によれば「今回のように、いったんやると決めて、特集の締め切りが2週間後に迫っているのにストップしたことは、ダイヤモンドの歴史上、過去に一度しかない」という。
彼によれば、通常は部員や副編集長が出した企画をデスク会議で話し合って最終的には編集長が決定し、局長などはこの意思決定には関与しない。ところが今回は、特集が決まったあとで取締役から内容について「質問」があり、それを受けて編集長が中止を決めたという。その理由は、編集長の説明では「電書協の件や講談社との関係」とのことだった。
電書協とは大手出版社でつくった「電子書籍協議会」のことで、24日の設立総会では31社の経営者がひな壇に並んで、野間代表理事(講談社副社長)を選出するセレモニーが行われた。取材した別の記者は「外資に対抗してみんなで仲よくやろうという話をしただけで、あの調子では何年たっても何も決まらないだろう」といっていた。
担当者は「電書協では何も決まらないし、講談社の圧力なんかない」と編集長にも説明したが、編集レベルではくつがえせない経営判断だとのことだった(社長が関与したかどうかは不明)。この特集については取次も取材に応じており、外部の圧力ということは考えにくい。営業サイドの「自主規制」の疑いが強い。
もちろん、この種の問題を取り扱うことにはリスクがともなうので、編集部でも事前に協議は行われ、再販問題などの取り扱いは慎重にする方針だった。途中の段階では、出版流通の部分を落として電子書籍の30ページだけやれという話もあったようだが、これは現場が「それではかえって問題の隠蔽になる」と反対し、全面的に没になったという。
以上が確認できた事実関係で、再来週の週刊ダイヤモンドの特集は「ドラッカー」に差し替えられるもようだ。これは一週刊誌の内紛といえばそれまでだが、見過ごせない問題を含んでいる。それはこの特集の入口は電子書籍だったが、本質的なテーマは日本で書籍の電子化が進まない背景に再販制度や委託販売などの不透明な流通機構がある、という当事者の「内部告発」でもあったことだ。
同じような問題は日本の多くの業界にあり、特にメディアに多い。当ブログでも取り上げてきた電波利権や、いま話題になっている記者クラブ、またこのダイヤモンドの特集のテーマだった再販など、枚挙にいとまがないほどだ。それはこの業界が「互いに他のメディアを批判しない」という情報カルテルを結んでいるからだ。
こうしたタブーを破って電波利権などのテーマに挑んできた週刊ダイヤモンドも、自分の業界のタブーからは自由ではなかったわけだ。これによって営業は救われるかもしれないが、ジャーナリズムとしての週刊ダイヤモンドの信用は決定的に失われるだろう。ただ考えようによっては、この事件は、日本の企業でなぜイノベーションが生まれないのか(あるいはつぶされるのか)を、特集記事よりはるかにわかりやすく示してくれたような気もする。
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