平成21年3月5日

意志表明書

奈良市三条大宮町5番33号
JR奈良駅前ホテル開発株式会社
代表取締役 米田 稔



貴市ならびに貴市代理人辻中栄世弁護士より平成21年3月3日付けにて頂戴いたしました文書に対しまして、弊社は、現状の地域状況を鑑み以下の通り意思を表明いたします。

弊社は本日付をもちまして、本ホテル開発事業からの撤退を表明し、平成20年11月18日付け「JR奈良駅前西側におけるホテル事業協定書」の解除条項を受け入れる次第です。

1.弊社が本ホテル開発事業からの撤退を申入れます理由は以下の通りです。
  • 弊社は、奈良市により策定され平成20年3月内閣府より認定を受けた「中心市街地活性化基本計画(以下「中活計画」といいます。)に深く共鳴し、また中活計画を策定された奈良市長及び奈良市の先見性を高く評価しております。
  • 弊社は、本中活計画の中で中核事業と位置付けられる本ホテル開発事業を、主体的な地域の総合力を結集し事業化していくことを本日まで目指してまいりました。本件事業計画における資金計画の中核には、民間都市開発推進機構(民都)からの支援を予定しておりましたが、まさにそれは奈良市中心街の活性化が民都の事業目的に合致するからであり、地元の総意によるバックアップという条件整備のもとにその支援条件が整うと考えたからです。しかしながら地域経済界の参加意欲は一向に盛り上がらず、反対に中活法が目指す理念や計画を理解していない地元新聞による報道が続いている状況にあります。
  • これら一連の報道等により、結果として地域経済界をはじめ各方面の支援が受けにくい状況が生じ、また弊社産業廃棄物除去工事の場面等では計画の進捗を阻害する状況も現出しております。
  • 厳しい着工期限と経済情勢の中で事実上破綻した旧事業主様より弊社が事業承継することに致しましたのは、旧事業主様および事業主債権者様との関係性が未整理なまま旧事業主様が民事再生手続に入ったため、事業および土地が再生手続の進行に巻き込まれて塩漬けになったり、最悪の場合土地が競売等にかけられる可能性も否定できず、中活計画用地であり、かつ、奈良市の玄関口の重要な不動産の所有権と中核事業を今後どのような流れになるやも解らない状態から守りたいという想いがあったからでした。
  • さらに、厳しい時間的制約と、折からの金融不況とも相まって事業承継者が不在になった状況の中で、本ホテル開発事業の実現の鍵は、中活計画の本来のあり方である「地域の力を結集して、事業を成功させる事」にあると考えて、事業の承継を決断いたしました。
  • また、事業承継時に建設チームとして参画されていた大手ゼネコンが、チームから下りるだけでなく、高額な図面の買い取りを求めてきたため、一から図面を作成する必要に迫られ、結果として、次期ゼネコン選定や工事価格の決定に時間を要したことも大きな要因の一つです。重ねて当初有力な候補企業であった、西松建設様で問題が起こったことも選定に時間をとられる要因となりました。なお、マリオットホテルとの事業推進についての基本的な合意(MOU)や設計等の技術条件についてのサービス合意については、建設図面の変更など合意の前提条件が固まらない中で協議を重ねざるをえない状況でしたが、本年2月11日に締結に至っていたことはご承知のとおりです。
  • その後、産業廃棄物処理については、産廃埋蔵という瑕疵付きの土地の売主としての責任を前提として、貴市が産廃処理費用を負担することなど、旧事業主様と貴市との間で確認されてきた事業条件をそのまま踏襲することを前提に、貴市と事業化に向け鋭意交渉してきたこれまでの取り組みは貴市もご存知の通りであり、報道上語られる手続き上の不備など全くないと信じるものであります。
  • 産業廃棄物処理に端を発する一連の報道からは、議会を含む行政や地域報道機関も中活計画を支える重要な一員であるという認識を全く感じることが出来ませんでした。
  • このまま議会において、産業廃棄物に関する補正予算の問題が長引くことによっては、来年度予算の成立が危機的状況となれば、最終的に市民生活に重要な支障を来す事につながります。そのような事は、弊社の希望する事態ではまったくありません。
  • 今回弊社の事業撤退により、遷都1300年という地域にとって大切な節目に本ホテルを開業させられなくなったことは誠に不本意ではありますが、ホテルは一過性のイベントではなく、外からのお客様をお迎えする宿泊施設であると同時に地域に支持されながら、地域とともに経済活性化を図っていく交流空間であり、中活計画上の重要な社会基盤施設であると認識いたしております。しかしながら、現状はこれら社会基盤施設を「行政・地域経済界・住民の総意で創出する」という中心市街地活性事業の基本とはかけ離れた状態にあると判断するに至りました。
  • 弊社といたしましても、着工期限までの時間が無かったとはいえ、事業承継当初段階において、広く地域に対して中活計画基本理念の共有化や支援体制の構築を働きかけ、地域社会や地域経済界における合意形成に目処をつけたうえで事業承継に名乗りをあげるべきでなかったか、という点については、深く反省をいたしております。事業の融資資金の調達にあたって、現状の厳しい経済情勢だけでなく、最終段階でこの点が大きな支障となり、今般、弊社として期限内での着工は困難と判断せざるを得なくなりました。
  • 中活計画は、日本全国でまだ66都市しか選ばれておりません。集中と選択の方針により、選ばれた都市は手厚い国のバックアップを受けることが出来ます。中心市街地活性化基本法が目指す街づくりは、単に経済の活性化を図ることだけでなく、職住接近の歩いて暮らせる街作り、多様な都市機能がコンパクトに集積した子供や高齢者を含めた多くの人にとって優しい街作りを目指すものであり、地球温暖化対策、環境負荷の小さな街作りを目指すものでもあります。それは持続維持可能な社会を建設していくために必要不可欠な構成要素なのです。1800の地方自治体の中から選ばれた事は大変な名誉であると同時に、中活計画を推し進める事は選ばれなかった地域に対しての責務でもあるという自覚が必要ではないか、と思います。
  • 鹿という自然を代表する存在と共存する奈良市は、サスティナブル社会を1300年前から具現化している世界でも希有な空間であり、その奈良が、中活法の基本精神であるコンパクトシティの実現を目指すことは、日本のどの地域よりも重要かつ、期待の大きい計画なのです。そのような計画の意味を行政だけでなく、市民や地域企業が理解することから始めていかねばならないのではないか、と弊社は考えております。
  • 停滞する現在の中心市街地の状況を鑑みると、近い将来、中活計画理念に基づき、真に地域総力を挙げた本ホテル事業が再開されること、またそのための推進母体となる新たな地域的枠組みが形成されることを強く望むものであります。今回の事態をきっかけに、改めて市民と地域経済界が一丸となって中活計画を推し進められる機運が醸成されればと切に願う次第です。
  • 弊社といたしましては、事業撤退にあたり、今後の手続き等については貴市の指示・指導に基づき誠実に対処して参りたいと存じております。
  • 最後になりましたが、このPJにご協力いただいた貴市を含め各方面の方々には、ご期待に添えず深くお詫びしたいと思います。申し訳ありませんでした。同時に、ここにいたるまでの間、貴市も含め、数多くの方々にご尽力いただいたことをご報告いたします。志有る方々や、地元はもちろん全国各地の奈良を深く愛していらっしゃる方々に、何らかの機会を通して感謝の気持ちを伝える事が出来ましたらと思います。本当にありがとうございました。
以上

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