憲法28条で保障されている労働組合の運動。
55年前から続く春闘(春季賃上げ闘争)も、非正規雇用が3分の1を占めるようになり、社会への影響力に陰りが見え始めた。
そんな中、大阪の地域に根を張る組合で若者たちの輪が広がっている。

<書記長 中嶌聡さん>
「泣き寝入りするのではなく正しく切れろ!ということを僕らは提唱してます」
異色の経歴をもつ27歳の書記長を中心に、ユニークな活動を繰り広げる若い組合が劣悪な労働環境を正そうと企業に立ち向かっている。
「正しく切れよう!今ドキの労働運動」
およそ100人の個人組合員が加入する「地域労組おおさか青年部」の中嶌聡さん(27)は、組織の専従書記長。

次々と舞い込む相談にひっきりなしに対応しています。
<派遣社員(27)>
「就職難の厳しさは身をもって体験してきているので、だからこそ悩んで悩んで、やっぱり(条件変更に)従おうと思っていた矢先に突然の解雇というのはなんのと思う」
<中嶌聡さん>
「そこは『キレ』ポイントですね」
<派遣社員>
「ハイ」
<中嶌聡さん>
「(団交申入書)送っちゃうで」

派遣切りの問題にテキパキ対処する中嶌さんですが、実は組合活動歴が2年にも満たない、いわば新米。
でも、闘う姿勢が注目され始めています。
企業の経営者と労働組合の代表が賃金などを話し合う団体交渉、通称、団交。
企業組合でも個人が加盟する中嶌さんたちの組合でも、労使双方が向き合う団交のスタイルに変わりはありません。
<中嶌聡さん>
「向こう(会社)が言ってきた事実関係で、ちょっとまずそうと思ったときに反応ないと、その通りになるんやと思うしかないので、事実関係についてはガンガン異議あったら言ってください」
<解雇された元社員(33)>
「よろしくお願いします」
去年12月、不況を理由に日用品メーカーから突然解雇され、その日のうちに職場を追い出されたこの女性は初めての団体交渉をまえに、少々緊張気味。
中嶌さんはこうした団交に立ち会います。
<中嶌聡さん(団交で発言)>
「これはもう完全に不当解雇なんで法律すら守られていないということになる、いま現在。わかってますかね、その点」
1回目はおよそ1時間で終了、交渉は次に持ち越しです。

<解雇された元社員(33)>
「私に何の非もないということで突き通した感じです」
<中嶌聡さん>
「法律知らないです、労働法を。労働法を学ぶ機会がそもそも経営者にない。登記さえすれば会社が出来るので。あなた労働法を知っていますか、という試験が経営者にないから」
中嶌さんは大学卒業後、大手派遣会社の正社員として2年間勤めるうちに派遣の仕組みに疑問を抱いたといいます。
<中嶌聡さん>
「派遣先に文句を言ったら間違いなく切られる。会社に文句を言うという文化が日本にはないので」
中嶌さんは独自で労働法を勉強し、収入の良かった正社員の職を手放しました。
そして、毎月10万円の寄付で生活する組合活動にまい進しています。
<中嶌聡さん>
「労働組合に入って団体交渉をして会社と対等に話をすることで『自分ってこんな意見を言ってよかったんや』とか、『会社も聞いてくれるんや』とか、最終的に金銭和解とか復職とかしたときに、『やってみるもんやな、やったらできるねんな』という人が増えてきている」
中嶌さんが訪れたマンションの一室。
<中嶌聡さん>
「お、すごいやん。スタジオやん」

インターネット放送用のミニスタジオができていました。
これこそが、組合活動の新たな戦略!
動画サイトを駆使し、自分達の活動を広く知らせようというのです。
<ネット中継する 中嶌聡さん>
「残業代が払われない、有給がとれない、不当解雇されたということに関して正しく切れる方法があるんだよ」
中嶌さんたちが語りかけるとサイトには次々と書き込みが寄せられ、中でも多いのがこんな意見です。
<ネット中継する 中嶌聡さん>
「ああ、俺は自己都合でやめた口だ。なるほど、あります。本当に多い」
会社からの圧力に屈して辞めるしか逃げ場がなかった若者の感想。
サイトの画面には本音に近い書き込みが次々表示されます。
「俺も上司に謝らせたい」(書き込み)
「法律違反していて国は無視、どして?」(書き込み)
職場で孤立しがちな若者たちの心をネットでもつないでいく労働運動です。
<中嶌聡さん>
「悪い会社に入ったことさえも入った貴方が悪い、とか自己責任論でよく片付けられるんですけど、自己責任論は都合のよい言葉。いかにも会社は完璧で、その人が悪いと片付けると、その仕組みが悪い場合、どんな人が来てもどんどん倒れていく」
ネット放送は現場からも行います。
企業前での抗議行動などを中継です。
<抗議する組合員>
「会社側が歩み寄りの姿勢をみせ、具体的な提案があるまで抗議宣伝を続けます」
撮影した映像を車の中のパソコンで送り出します。
「終身雇用の時代と違って僕ら理不尽さを我慢した先に何か保障されるものは一切ないと思います」(神戸・西区の自宅ネット中継する中嶌さんの声)
このネット中継のサイトにさかんに書き込みをした1人、高田さん(仮名・30歳)です。
<高田さん>
「コメント書いたりとか、その参加だけでも向こうで嬉しいと言ってくれている。これでもやっぱり参加出来ているって感じがある」
「お疲れさまです@鯛焼き」(高田さんの書き込み)
高田さん、実は国立の大学院を卒業後、外食産業で鯛焼きチェーン店を一手に任されましたが、毎月のサービス残業が平均120時間以上にのぼり、過労からうつ病を発症して働けなくなりました。
団交にのぞむ気力も失った高田さんがくじけないようサポートするのも中嶌さんの大切な役割です。
<高田さん>
「僕は思いっきり正しくない切れ方(ウツを発症)をしちゃった。そこに至るまでに・・気づいて欲しい『正しく切れる』って。ちょっと僕はもう手遅れなんじゃないかなあ」
これまで相談にのったケースのうち3分の2が解決し実績がようやく知れ渡るようになってきました。
先月、初めて団交したばかりのこの女性も、近く会社側と金銭的な和解ができそうです。
<解雇された元社員(33)。
「これから先、私何がみんなに出来るかな。ここで助けてもらったこともあるので」
<中嶌聡さん>
「あきらめて何もしないのではなくて、切れて暴力を振るうでもなくて、正しく自分たちの権利を知って、正しく権利を主張しようというのが広げれれば、それはすごく共感を呼ぶと思うし、新しい息吹というか方法論を提示できると思っているので逆に言うとチャンス」
就職が難しい時代だからこそ、若い世代が労働法を知って企業に不当な対応をとらせない、今ドキの組合運動です。

<スタジオでスタッフ>
「お疲れ様で〜す(拍手)」
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