「大相撲春場所11日目」(24日、大阪府立体育会館)
横綱白鵬が大関とりの関脇把瑠都を上手投げで退けた。相手の大関昇進だけではなく、優勝争いも懸かった重要な一番。真っ正面から四つに組み止め土俵下まで投げ捨てる横綱相撲で、把瑠都の壁として立ちはだかった。1敗の大関日馬富士は大関琴光喜に寄り切られ、2敗に後退。琴光喜は勝ち越しを決め、かど番を脱出した。
◇ ◇
まるで相手にしなかった。土俵下で尻もちをついた把瑠都に一瞬、視線を落としただけで、すぐに背中を向けた。表情を変えずに支度部屋へ引き揚げると、リプレー映像を放送するテレビの前で仁王立ち。完勝を確認し、ようやく口元を緩めて風呂場へ向かった。
今、一番強く、勢いのある敵だった。「全勝同士だし、どんなもんだろうという気持ちがあった。(把瑠都は)うまくなっているね」。立ち合いから鋭く踏み込んで、突っ張る暇も与えずに自分が得意の右四つに。把瑠都が左を巻き替えたのに乗じて寄って出ると、上手投げで転がした。余裕のコメントには綱のプライドがにじみ出ていた。
先場所は巻き替えを許した後に把瑠都のすくい投げを食らった。横綱に昇進した07年名古屋場所以降、大関以下の同じ相手に本割で連敗したのは、07年秋から08年初場所にかけて安馬(現・日馬富士)に3連敗しただけ。「同じ技は食わないと頭に入れていた」。連勝を30で止められた先場所の苦い記憶が、厳しい攻めにつながった。
今場所からは一人横綱として、批判と期待が集中するようになった。前夜は知人に酒席に招かれたが、11時には席を立ち、日付が変わる前に部屋へ戻った。豪快に飲み回ることを公言していた朝青龍とは対照的に、白鵬は白鵬らしく、横綱を務め上げようとしている。
先場所までトレーナーから毎日欠かさず受けていた、取組直後の調整も今場所は受けていないほど体調はいい。場所前、「把瑠都の壁になる」と公約し“有言実行”を果たしたが、「まだ(場所が)終わっていないから」。優勝まで、白鵬が歩みを止めることはない。