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【社会】

無罪でも終わらない 菅家さん故郷で語る

2010年3月25日 07時07分

故郷の街並みを眺めながら判決を前にした思いを語る菅家さん=栃木県足利市で

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 灰色ではなく、真っ白な無罪を−。26日の足利事件の再審判決公判を前に本紙の取材に応じた菅家利和さん(63)は、故郷の地を巡りながら思いを語った。「無罪が出ても終わりじゃない」。誤判の原因が究明されることを求めるとともに、自分のような悲劇が繰り返されぬよう「冤罪(えんざい)の語り部になりたい」と誓った。 (宇都宮支局・横井武昭)

 穏やかな日差しが降り注ぐ春三月。栃木県足利市の市街地を一望できる小高い丘にある神社で、菅家さんは目を細めた。「南の方は新しい店が増えました。あとは変わらないね。山も川も。故郷はやっぱりいいですよ」

 昨年末、一九九一年十二月の逮捕から十八年ぶりに帰郷した。市営住宅での静かな暮らしで徐々に日常を取り戻しつつある。

 そんな菅家さんの表情が、女児の遺体発見現場の渡良瀬川を訪れると一変して険しくなった。ふいに当時の現場検証の記憶がよみがえったという。青いシートに囲まれた河川敷、「おまえがやったんだ」と頭に響く刑事の声…。菅家さんは「もうここは歩けない」と顔を背けた。冤罪の傷跡が今もうずく。

 昨年十月に始まった再審も苦い過去との闘いだった。再生された取り調べテープの中には、泣き叫び、自白に追い込まれる自分がいた。「悔しくて身が引きちぎられそうだった」。検察はDNA型鑑定の誤りを認めず、元検事も最後まで謝罪しなかった。「納得はできませんよ。捜査員や鑑定した技官、裁判官。犯人に仕立てた張本人が謝っていない」

 その一方で、「無罪が出たからといって終わりじゃない」と力を込める。布川事件や名張毒ぶどう酒事件など冤罪を訴える人たちは全国に大勢いる。市は臨時職員の仕事を用意すると約束してくれたが、「しばらくは冤罪で苦しむ人を支える活動を優先させたい。こんな苦しみは私で終わりにしたいから」と訴える。

 そのための一歩として、「なぜ自分が捕まったのか明らかにしてほしい。さもないと、また同じことを繰り返す」と判決に大きな期待を寄せる菅家さん。取材の最後にこうつぶやいた。「いつか、渡良瀬川の河川敷をのんびり歩きたいんです。昔みたいに何も考えずにね」

(東京新聞)

 

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