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きょうの社説 2010年3月25日
◎能登半島地震3年 心のケアが地域再生の土台
能登半島地震から3年がたち、被災地の復興に向けた取り組みが着々と進んでいる。石
川県は主な社会基盤の復旧工事は完了したとして、本格的な復興へ軸足を移している。一方、被災者、とりわけ高齢化が進む能登の高齢者らに対する心のケアを含めた支援には区切りがなく、着実な取り組みが求められている。能登は地域社会のつながりが深いとされ、震災時も日ごろの付き合いのなかから安否確 認が進み、その後の迅速な復旧活動にもつながった。震災によってこれまでの環境が変わり、孤独感や暮らしの不便さなどを感じる住民の増加が懸念される。行政や地域、関係団体などが連携した高齢者らに対する支援をより強化してもらいたい。各地の地域コミュニティーを守る動きは、今後の能登再生の土台にもなろう。 先ごろ、首都直下地震が起きた場合の復興対策に関連して、内閣府の検討会が能登半島 地震などの教訓を含めた提言資料を作成した。能登半島地震では、市などが委嘱した生活援助員が仮設住宅入居者のケアに当たった例を引き、高齢者の孤独死を防いだり、生きがいづくりを助けたりする仕組みづくりを提言している。 2007年当時、仮設住宅に住む高齢者を対象にした金大グループによる調査では、近 所付き合いや家族との交流が少ない人は、不安や緊張などPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような心の被害を強く訴える傾向にあるとの結果をまとめている。仮設住宅には生活援助員やボランティアらが訪れて、被災した高齢者、住民らの見守りや相談に応じ、交流を深めていた。現在の居住地でも高齢者の心のケアに欠かせない周囲との交流やきめの細かい支援態勢がとられているか、あらためて確認する必要がある。 能登各地では新たな高齢者対策も検討されており、輪島市は高齢者の見守り態勢の強化 を掲げ、七尾市は高齢化、過疎化が進む集落への支援員配置などを計画している。県内各自治体も震災の教訓を生かして「安全・安心のまちづくり」を支える幅広いネットワークづくりを進めてほしい。
◎郵政改革法案 懸念される官営の肥大化
政府が示した「郵政改革法案」の骨子は、小泉政権が進めた民営化路線を転換する内容
であり、「官営企業」の肥大化によって民間金融機関が大きな打撃を受ける懸念がある。ゆうちょ銀行が持つ貯金残高は北陸3県で約5兆円に上り、このほとんどが国債購入に充てられている。ゆうちょが県民の貯蓄資金を吸い上げると、民間金融機関の融資姿勢にまで影響が及ぶのではないか。ゆうちょ銀行への預け入れ限度額が現行の1000万円から2000万円、かんぽ生命 の保険金限度額を現行の1300万円から2500万円へ引き上げられると、日本郵政グループの経営は確かに安定するだろう。政府出資比率が3分の1を超える実質的な「政府銀行」の信頼度は民間の比ではなく、郵便・貯金の全国一律サービスを維持するという法案の目的は達成されるかもしれない。 だが、その代償は決して小さくない。そもそも郵政改革は、簡保を含めると個人金融資 産の3分の1を占めていた巨大官業を民営化し、市場メカニズムにゆだねることにあった。国債や財政投融資などを通じて、公的部門に流れていた資金を民間部門に流し、国民の貯蓄を投資に振り向けることで、経済の活性化につなげる狙いだった。しかし、「官から民へ」の流れを逆転させる法案が成立すれば、元のもくあみになりかねない。 民間と対等な立場で競争し、より効率的なサービスを提供するとした民営化のメリット は失われ、公社時代の「見えない国民負担」を最小化するとした目的も果たせない。逆に民間金融機関の経営を圧迫し、法人税収の減少を招く可能性も考えられる。 亀井静香郵政・金融担当相は参院財政金融委員会で、「国債を安定的に引き受ける、そ うしたメガバンクを新たに作るつもりは全然ない」と述べた。だが、ゆうちょには融資のノウハウがなく、資金運用の人材もいない。資金が増えれば、国債を買うだけしか手がないのではないか。政府から見れば、国債の引受先が増える安心感はあるだろうが、国民の利益につながるとは考えにくい。
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