『ラジオの前の君へ』
車で道を走っている時。
自分の進む道の信号がこの先どこまでもずっと青だったらいいな
と思うことがあります。
でも、道は自分だけのものではありません。
道を横切る歩行者もいれば、曲がろうとする車もいます。
いろんな人の為に信号が赤になった時は、
他の人に道を譲らなければなりません。
それと同じように今まで8年9ヶ月間、
運良くずっと進む道の信号が青だった西川貴教のANNという車の前に、
もうすぐ赤信号が灯ろうとしています。
8年9ヶ月間、毎週2時間で年50回。
4時間やったこともあったし、特番もやったからおよそ900時間。
5万4000分、324万秒。
だけど、これを日にちに換算すると、たったの37日。
実は僕がANNをやってた時間というのは、
学生時代の夏休みぐらいにしかすぎません。
でもこの時間は、子供の頃の夏休みなんかよりずっと意義があって、
ずっと自分が生きてる意義を実感できた324万秒でした。
今から10年と少し前、バンドを解散した僕は、
この先も大好きな音楽を続けるために、あてもなく曲を作り、
人生の暗闇の中で未来という光を探して苦しみもがいていました。
何もかもに行き詰まり、先へ進めない焦り、
自分が理解されない事への苛立ち、当時の僕は一人ぼっちでした。
その時すべてに疲れ、誰とも逢わず過ごすひとりの部屋で、
ふとスイッチを入れたくなるのはTVではなく、
田舎にいる頃から好きだったラジオで、
今ラジオの前にいる君と同じようにラジオから流れるANNを聞いていました。
ANNは孤独を感じていた僕に、今、この時、同じ時間を過ごしている仲間が、
全国にいるという安らぎと、楽しさをくれました。
『いつか自分もANNをやって、人と時間や楽しさを共有したい』、
ANNをやる事は、のちにミュージシャンとして大成した時の
夢のひとつになりました。
そして、デビューから半年が経った1997年1月6日、
僕は運良くANNをやらせてもらう事になりました。
あれから8年9ヶ月、その間に出来た思い出は
短い時間では語りつくせませんし、今までいつも未来に向かって
ただ全力で歩んできた僕たちにとって、
振り返ったりするべきものではないのかもしれません。
ただ、番組が終わるにあたり、この8年9ヶ月の意味を考えた時、
きっと僕は8年9ヶ月間、ずっと仲間を探し続けてたんだと思います。
人は誰しも欲張りで我侭だから、
『たくさんの人から愛されたい』そして、『理解されたい』と思い続けています。
僕もしかりで、音楽だけじゃなく、人間的にも愛されたい、
自分を理解して欲しい、そう願い続けています。
だから僕は、自分が楽しいと思うことを一緒に楽しいと思ってくれて、
毎週時間を共有してくれる仲間、そんな仲間を探す旅を
これまで続けてきました。
そうして仲間は少しずつ増えていき、8年9ヶ月経った今では
こんなにもたくさんの仲間ができました。
番組の担当を外れても何かあるとしょっちゅう顔を出してくれた
たくさんのスタッフ、
そして、全国各地で今僕の声に耳を傾けてくれてる君、
君・・・ そして、君・・・
そう、実はラジオの前の君は、ひとりだけどひとりじゃないんです。
今この時、この瞬間、日本全国には僕をはじめ、ラジオの前の君と一緒に生きて
同じ時間を過ごし、楽しさを分かち合ってるたくさんの仲間がいることを
忘れないでください。
この8年9ヶ月の間僕は、音楽での活動、そしてプライベートでも
ツライ事、悲しい事、苦しく腹立たしい事、裏切られた事・・・
たくさんありました。
でもどんな時でも週に一度のANNだけは、
僕にとって自分を必要とし分かり合える君たち、
たくさんの仲間が迎えてくれる、いつも一番安心できる場所でした。
ANNのリスナーとスタッフは、僕を受け止めてくれて、
僕を待っていてくれる僕の心の支えでした。
そして、そんな僕の番組を心の支えだと言ってくれる人がいました。
支えて、支えられて、本当にいい仲間とめぐり逢う事ができたと思います。
僕にとってこんな仲間が出来たのは、一生の誇りです。
ありがとう!!
何万回言っても言い足りないけど、ありがとう。
そんなANNが終わってしまうのは、本当に残念です。
でも今こんなにも残念に思う事ができるのも、ANNをやれたからこそ。
そう考えると、残念な以上に本当にANNをやれて良かったです。
ANNをやって、本当に出逢えて、本当に良かったです。
そう思うからこそ、ANN、AMラジオがイメージに合わないとか、
メディアでは自分が伝わらないとか言ってるアーティストや、
ラジオは古くさい、魅力を感じないとか言って聞いたことも無い奴に
僕はこう言ってやりたいです。
『ざまーみろ!!』
そういう人たちには、今僕が感じている幸せや喜びを、
一生感じる事が出来ないんだと思うと、本当にざまーみろです。
さぁ、8年9ヶ月間走り続けてきた西川貴教のANNという車の進む道の信号が、
もうすぐ赤になります。 赤になったら止まります。
でももし、もしまた信号が青になったら、走り出します。
また必ず信号が青になる日が来るのを信じて、僕はずっと待ってます。
最後にリスナー、そしてスタッフも含め、ANN本当にありがとう。
ANNという伝統のある番組に8年9ヶ月という大きな足跡を残せた事は、
僕にとって一生の想い出です。
そして8年9ヶ月間、僕が君の心に何かが残せたなら嬉しいです。
8年9ヶ月間、本当に、本当に有難うございました。
西川貴教
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