日本に仕掛ける「焦土作戦」 サムスン電子 (上)選択3月23日(火) 10時 4分配信 / 経済 - 経済総合昨年二月に発売されたアマゾンの電子書籍リーダー「キンドル2」を分解した日本の半導体メーカーのエンジニアは落胆の声を上げた。近年のデジタル家電製品で数少ないメガヒットとなった米アップル社の携帯音楽プレーヤー「iPod」から日本製半導体が消え、国内業界に衝撃を与えたのが二〇〇二年。これに続き、昨年ヒットした「キンドル2」でもまた、日本製半導体が使われていなかったのだ。代わりにプロセッサーやメモリーなどの主要半導体部品は韓国サムスン電子製の半導体で占められていた。 昨今、日本のエレクトロニクス産業が世界市場で競争力を失い、「一人負け」の様相となっている。それとは対照的に、韓国企業、特にサムスン電子の「強さ」がまた一段と注目を集めている。昨年十月末に発表されたサムスンの〇九年第3四半期決算は、業績不振に苦しむ日本勢をよそに、営業利益を前年同期比約三倍に膨らまし、三千億円台に乗せた。決算内容を信じる限り、サムスンはウォン安などを逆手にとって最大限に輸出を伸ばし、事業基盤の安定と市況回復を効率よく吸収する仕組みを確立したようだ。 日本の電機大手八社の営業利益を合計してもサムスンのそれの半分にも満たないという現状を受け、日本の各メディアも、「背中は遠のき、もはや手の届かない存在」と嘆いている。しかし、サムスンの本当の恐ろしさを実感するのは、これからだ。サムスンはいま、虎視眈々と日本に対する「焦土作戦」を仕掛けようとしている。 標的はまたしても日本に 「実はサムスンは、主力事業である半導体や液晶パネルをもはや成長事業とは考えていない。これらの事業の戦略は、次なる成長事業を育成するまでの時間稼ぎへと軸足が移りつつある」 こう語るのは、長年サムスン電子を見続けてきた半導体業界関係者だ。韓国では李明博大統領の誕生を機に、「科学技術開発の国家戦略重点項目」が発表された。そこでは環境・エネルギー分野への技術移転を進めるとの方針が発表されたが、注目すべきメッセージはむしろ、これまで国家的産業と位置づけてきたエレクトロニクスを除外したことにある。半導体や液晶パネル産業で世界を席巻する韓国においてさえ、将来の成長産業という認識は薄れつつあるというわけだ。技術の成熟化が進み、将来予想される単価や出荷の落ち込みをカバーできる新技術などの成長材料が見当たらないことが、理由のようだ。 「眼下のビジネスに安住するな。キャッシュがあるうちに半導体、液晶パネルの代わりを探せ」。リーマンショック後の〇八年末、サムスンではこのような大号令がかけられ、「脱エレクトロニクス」という明確な目標が掲げられた。 しかし、サムスンといえども、新産業の育成など一朝一夕にできるものではない。それまでの期間、成熟化したエレクトロニクス市場でどのように成長を維持するか。サムスンは伝統的に、最も与しやすい相手から新たな市場を奪う。標的はまたしても日本である。 昨年夏、来日したサムスンの上級幹部の注目すべき発言が伝わっている。その内容は、「主要部品を内製化し、一眼レフカメラの完全内製化を実現したい」というもので、その際「ニコン、キヤノンの日本勢の牙城を崩したい」と断言したという。これまでサムスンはペンタックスとの共同開発品を発売してきたが、独自製品の開発実績はない。昨年三月の国際展示会で試作品を披露していたが、彼らが計画を口にした場合、大抵は一年以内に製品化の準備ができたことを意味する。この発言で日本のカメラ各社はさぞかし肝を冷やしたに違いない。 サムスンが「デジタル一眼レフ」に白羽の矢を立てたのは極めて象徴的である。確かにサムスンの主力四事業(薄型テレビ、携帯電話、半導体、液晶パネル)に比べれば、事業規模で見劣りする一眼レフだが、そのインパクトは決して小さくない。業界アナリストは指摘する。 「イメージセンサーのほかレンズ、光学部品、各種電子部品など基幹部品が搭載されており、これらはいずれも現在に至るまで日本勢の独壇場だった。電子部品は長年、村田製作所やTDKといった日本企業が席巻しており、市場シェアの九割以上を占める品目もある。電子部品の市場規模は二十兆円以上とも言われており、彼らにとっては熟した隣家の果実そのもの。金額もさることながら、いまだサムスンの手つかずの市場を彼らに奪われるダメージは計り知れない」 こうした「日の丸」電子部品は、材料の配合や焼成技術など職人技とも呼べる技術的蓄積のかたまりだ。また、光学系部品は極めて高度なすり合わせ技術を要する。これらの製品は、技術上の差別化よりもコスト削減と果敢な集中投資で競争をリードするデジタル時代のサムスンの常勝パターンからは外れるもので、本来彼らが最も不得手とする領域である。 こうした分野にまで彼らの手は伸びてきているのだ。日本勢が優位を示せる「最後の市場」に対するサムスンの戦略は、日本勢を徳俵にまで追い詰めるものにほかならない。 |
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