長谷川 お母さんとは感情の交流をしているということですよね。お母さんがかわいそうだという気持ちも持っていたし。でも、今お話を伺うと、やはり事情があって、お父さんに対する気持ちはシャットアウトされている。
柳 それは、何故なんでしょうね?
長谷川 そこが、解かなければならないなのではないかと……今、三時です、すごく短く感じなかった?
柳 二、三十分ぐらいしか経っていないのかと思った。
長谷川 一時間が、ね。このあと、一時間休憩して、お父さんが登場する。
柳 私はアレですかね? 事前に父にわないほうがいいですかね?
長谷川 どちらがいい?
柳 それをずっと考えているんです(笑)。
長谷川 この部屋で勝負すればいいんじゃないですか?
柳 じゃあそうします。なんかね、ロビーに迎えに行って、ラウンジでお茶するなんてことになったら、近況を訊かざるを得なくなってしまうじゃないですか。つい数日前に母から聞いて仰天したんですが、本国から出稼ぎに来た、私とあまり歳が変わらない韓国人女性と同棲してるらしいんですよ、家族が暮らしていたあの家で。それを訊くのもアレだし、訊かないのもナンだし……。
長谷川 話の取っ掛かりは、だれがつくります?
私?
柳 です、かね……。
長谷川 じゃあ、そのへんはお任せでいい? 話すときの位置は、どうしましょうか?
柳 あぁ、位置……座る場所ですね……。
長谷川 お父さん、柳さんのとなりだと、ちょっと近過ぎるでしょう?
柳 ちょっと近いですね(笑)。
長谷川 お父さん、正面のほうがいい?
柳 正面でもいいですよ、はい。
長谷川 こんな感じで、私がここで、柳さんとお父さんのあいだを椅子一つ分ぐらい離して……あいだに塀がなくてもだいじょうぶ?
柳 だいじょうぶですよ(笑)。
長谷川 パンチとか飛ばない?
柳 だいじょうぶですから(笑)。
長谷川 今、心は穏やか?
柳 そう、ですね。
長谷川 決戦の前、という感じではない?
柳 緊張はしていますが、昂ぶってはいません。
長谷川 お父さんを交えての二時間、なにが起きるか。私は、ワクワクしていますよ。
柳 ワクワク、ですか?
長谷川 最後のチャンスかもしれないからね。
柳 それは、そうですね。心理的な距離がかなりあるので、うとなると、それなりの理由が要りますからね。最後かもしれない……。
長谷川 じゃあ、柳さんには四時五分前にこの部屋にはいってもらって、四時ちょうどに石井さんにお父さんを連れてきてもらう。
柳 よろしくお願いいたします。
長谷川 柳さん、部屋はあるんですか?
柳 今日は、泊まりなので。
長谷川 じゃあ、待っているあいだ、なるべくなにも考えないで、旅の車窓から流れる風景を眺めるような感じで、ぼうっとしていてください。
つづく