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特集地軸2010年03月23日(火)付 愛媛新聞

医者の言葉

 古代ギリシャに由来する「ヒポクラテスの誓い」は医師の普遍的倫理を説き、いまも医学教育などで登場するという。その一節にある。「自分の能力と判断にもとづいて医療を患者のためになるよう行い、害になるものを決して与えない」▲
 技術の進歩で治療の選択肢が多様化する現代。最善の医療には患者の意志の尊重が要求される。大変だが、患者へのいたわりや医師への信頼が土台となるのは、昔と同じだろう▲
 本紙「門」欄に悲しい投稿があった。介護施設から連日救急搬送された祖父。そこでの医師の対応についてだ。「高齢なんだからお迎えが来ているんだよ! 何度も病院に運んで施設の人にも迷惑をかけてるんだよ!」▲
 能力の限界を超えても投げ出せず、主体的判断の余地もない。「誓い」に照らすなら、そんな医療現場の深刻な疲弊の現れでもあろうか。そう考えてはみつつもやはり胸がつまる▲
 「高度情報化社会における生命倫理」。日本医師会は先月そう題した報告書をまとめた。医師によるネット上での発言にもふれ、匿名性に依拠した患者らへの中傷に警鐘を鳴らす。そんな現実がある反映であり、何時も医道の実践者たれという自戒に思える▲
 財務諸表などに追われ、診察でもパソコンに向かいがち、とはよくいわれることだ。薄らぐ人とのかかわり。医師のひと言には、人を救う力もあるのに。

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