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読解・小沢流:「剛腕」の素顔/1 ちょろちょろしないで--「未熟」首相にいら立ち

 ◇政権管理、悩んだ末 側近「直接電話したら二重権力」

 「ちょろちょろしないでください」。昨年12月初旬、国会内の幹事長室で民主党の小沢一郎幹事長は、いら立ちを受話器に向かって吐き出した。電話の相手は鳩山由紀夫首相。不機嫌な物言いに周囲には緊張が走った。

 「無駄撲滅」を掲げる鳩山内閣にとって初の試金石となった10年度予算案。11月の事業仕分けは注目を集めたが、削減は約6900億円で目標の3兆円に遠く及ばず、大幅な税収減とあわせて深刻な財政難に陥っていた。

 だが、首相は2・5兆円の税収を左右する暫定税率の存廃を明言せず、あいまいな発言を続けた。「(廃止を明記した)マニフェストは国民との契約だが柔軟であるべきだ」(12月2日)、「財源が足りないから仕方ないみたいな議論は認められない」(同3日)。小沢氏の電話は首相の「迷言」が引き金だったという。

 小沢氏のいら立ちはその数週間前から始まっていた。11月26日、国会内に小沢氏を訪ねた旧友の平野貞夫元参院議員に不満を漏らす。「内閣は予算作りを全然理解していない。年内編成が難しくなれば、重大な事態だ」。野党時代のマニフェストと、現実政治との調整に乗り出さない首相に小沢氏が不信感を募らせた結果だった。

 政務と党務を分離し、政策は内閣に一元化する--。昨年9月の鳩山政権発足時のルールに従い、政策立案は内閣に委ね、小沢氏は盤石な民主党政権を築くため、今夏の参院選と次期衆院選対策に専念するはずだった。

 だが、「政権慣れ」していない鳩山内閣の迷走ぶりは「誤算」だった。周辺によると、小沢氏は予算編成に「本気で首を突っ込む覚悟」を決め、昨年12月16日に首相官邸に乗り込んだ、という経過になった。

 鳩山政権を「未熟」だとみる小沢氏が政権の管理へと動いた瞬間だったが、側近らによると、小沢氏は権力を「抑制的に行使」するよう心掛け、表舞台へ出ることを「極力避ける」のが小沢流の権力統制術といわれる。

 平野氏によると、「党は政策に口出ししない」とのルールを破ることに小沢氏はちゅうちょしたという。「ずっと悩んだ様子だった」。鳩山首相の立場をおもんばかって言いたいことも言えない、というのが平野氏の解説だ。

 こうした事態に鳩山、小沢両氏の周囲は危機感を持つ。暫定税率問題が一段落した12月25日、東京都内の料理店に平野博文官房長官、小川勝也首相補佐官、輿石東参院議員会長、高嶋良充筆頭副幹事長らが集まった。

 「幹事長が直接、首相に電話し始めたら二重権力のように言われる。側近同士が連絡しあっていこう」。高嶋氏のことばに全員がうなずいた。意思疎通がままならないツートップ。「小鳩体制」の危うさがここにある。

    ◇

 民主党中心の鳩山政権発足から半年。この間、政局舞台の回転軸であり続けたのは、鳩山首相ではなく、小沢氏だった。「剛腕」と呼ばれ権勢を振るった自民党を離党して17年。常に政界再編の台風の目となり、多くの与野党政治家や官僚が「対小沢」の座標軸の中で語られてきた。小沢氏とは何者なのか。その実像に迫る。=つづく

毎日新聞 2010年3月23日 東京朝刊

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