春の王者は、初出場の挑戦者が周到に準備したワナに、かかった。
名電は1回、先頭から得意のバント攻撃を見せた。投手が動作に入るとバントの構え。佐々木が四球で出ると、続く柴田、小島が連続でバントを成功させる。4回も堂上を一塁に置き、5番の山田は迷わず三塁側に転がした。
「やり続けていれば、いつかプレッシャーになると思った」と主将の柴田。清峰の吉田監督は違った。「名電に負けるチームはいつも自滅。バントされるのは仕方ない」
選手には平常心を説き、約束事を徹底させた。「バントされても投手は極力動かない。三、一塁手がカバー」。名電を研究すると、投手の動きでバント方向を決めていた。判断材料を与えないことと、スタミナ消耗を防ぐ狙いもあった。
11回。1死から花山が試みた三塁線へのセーフティーバントは、猛ダッシュで前進してきた三塁手の好守に阻まれた。この日2度目の失敗に「むこうは慌てていない。春みたいにミスしてくれない」。12回。2死一、三塁から十亀のセーフティースクイズも、アウトを増やしただけだった。
名電の39アウトのうち、10がバントによる。「揺さぶり続けたが、相手の守備が上。あそこまでやれば、普通は崩れるのだが」。シナリオ通りに行かなかった倉野監督は、脱帽した。昨春のバント・機動力に、堂上を中心とした強打を融合させた今春から4カ月。強打を見せることなく、バントに固執し名電は散った。
■斉賀「ふがいない」
選抜優勝投手の夏はあまりに短かった。愛工大名電のエース斉賀は6回2失点、104球で降板した。5回、2死をとりながら3連続四球と内野安打で先取点を与え、リズムを崩した。「フォームがまとまっていなくて、愛知大会の時の悪い癖がでてしまった」。交代させられても「監督が決めたこと。あれがいまの実力。自分がふがいなかった」と話した。
■4番堂上、冷静安打
愛工大名電の堂上に10回と12回、同じ2死一塁で打順が回った。長打が出ればサヨナラ。選抜2本塁打の4番の登場にスタンドは最高潮に盛り上がる。だが、冷静だった。「相手は長打を警戒して外寄りに攻める。つなぐことしか考えなかった」。いずれもコンパクトな振りで単打を放ち、好機を広げた。まだ2年生。「自分たちの代で春夏連覇を果たします」。涙は見せなかった。