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オピニオンアーカイブ

危機を克服して進化する吉野家流経営

~「吉野家ウェイ」に見る現場を活かす価値追求マネジメント~

BIZセミナー経営戦略
更新日 : 2008年04月21日 (月)

第3章 売上1割増を達成する方法

安部修仁

安部修仁: 吉野家では、「客数主義」を、社会における存在感やマーケットに支持されているかどうかを計るバロメーターにしています。客数という数字で実感することで、自己満足に陥ることを防止しているのです。そのため、1日500人以上の客数をもって、繁盛店と定義しています。客数の経時変化が同業他社の平均よりも高い伸び率になっていれば、マーケットに適応していると見なします。社会における存在意義・価値は、延べ客数で判断します。

「来店頻度主義」は、売上を上げるときの重要な考え方です。例えば1日の来店者数が1,000人の店が売上1割アップを目指す場合、来店者数を1,100人にすればいいわけです。このとき、新たな100人にアプローチして新規顧客を増やす方法もありますが、私たちはその方法は取りません。

なぜか?
現在、吉野家は全国に約1,000店舗あり、1日の総来客数は約60万人です。60万人のお客さまの中で、今日生まれて初めて吉野家に入った人というのは、おそらくコンマ数%です。ほとんどの人が、これまでにどこかで吉野家を利用したことがあって、その経験が「今日、吉野家で食べよう」というモチベーションになっているのです。それはつまり、店に入るとき、潜在意識の中で「いつもの吉野家の味・いつもの吉野家のサービス」を求めているというわけです。従って私たちは、そうしたお客さまの期待を裏切らないことを最優先に行動します。

では、売上1割アップをどうやって実現するのかと言うと……例えばその店の来店頻度の平均が10日に1日であったとしたら、9日に1回にするわけです。1日1,000人で10日に1回なら、延べ1万人の利用者がいるということです。この利用者数は変えずに、来店頻度を上げるのです。

従って各店舗では、今日店に来たお客さまを満足させ、また来ようと思ってもらうことに、日々のエネルギーを注がなくてはなりません。「来店頻度主義」とは、店に来た人をいかに喜ばせるかということなのです。その意味においては、本部という非生産的な部門は、実は不要ということになります。しかし店舗が増えると、各店舗が個別で素材調達を行ったり什器導入したりするより、専門の人間がまとめて行ったほうが効率が上がるようになります。本部は店舗をサポートするために、合理性と有効性にもとづいて発達してきた分業制なのです。

従って「来店頻度主義」は、各店舗はもちろん、本部を含めて全社が大切にしている思想です。これは、築地というクローズドなマーケットの中で成長を目指したために醸成されたものなのです。


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