きょうの社説 2010年3月23日

◎八田映画が台南巡回 次世代の交流に大きな弾み
 台湾の水利事業に尽力した金沢出身の八田與一(よいち)技師を描いたアニメ映画「パ ッテンライ!!」の巡回上映会が台湾・台南県で始まり、8月まで同県内の教育、文化施設で順次開催される。八田技師が建設した烏山頭(うさんとう)ダムのある地で、次代の日台交流を担う若者たちに八田技師の功績を広く伝えることは大きな意味を持つ。

 八田技師を通じた金沢、石川と台湾との児童生徒らの交流は広がりを見せており、今月 も金大附属生が修学旅行で烏山頭ダムを見学し、金沢学院東高が台湾の生徒一行を迎えて友好を深めたばかりである。「パッテンライ!!」の台南県巡回上映を若者らの交流促進の弾みとしたい。

 台南県の計画では8月までに同県内の小中学校や、高校、大学、専門学校のほか図書館 、社会教育センターなどで上映する。「パッテンライ!!」は昨年、台湾各地で上映され、八田技師への関心と共感が一気に高まった。

 今回の台南県巡回は最初の児童対象の上映会が好評だったように、若者に人気のある日 本のアニメという媒体によって、八田技師の不屈の意志や、誰に対しても分け隔てなく接した人柄などが若年層によく伝わるはずである。台湾での日本語世代の高齢化が進むなか、日本と日本人に対する理解を深めてもらうためにも、より多くの若者に見てほしい。

 石川と台湾の生徒による八田技師ゆかりの地の訪問は、互いによい刺激を受けている。 金大附属高の生徒はダムの実物を見て、スケールの大きさと技術の高さに驚き、「郷土の偉人」であることを肌で感じた。また、金沢学院東高を訪問した台湾の生徒は、八田技師の生家や母校も訪れた。一行は技師を誇りとする地域の人々の思いに接して、八田技師を「平和の大使」とたたえている。

 今秋に台湾を訪れる泉丘高生も「パッテンライ!!」を鑑賞するなど、事前の学習を深 めている。台湾でも巡回上映を機に金沢、石川を訪れる若者が増え、相互交流の促進を期待したい。来春には石川県で日台観光サミットが開催される。八田技師を通じた若者たちの受け入れ体制もさらに整えたい。

◎工作機械の首位交代 技術の優位性に磨きを

 長らく世界一の座にあった日本の工作機械の生産額が昨年、中国とドイツに抜かれて第 3位に後退した。昨年末から受注に回復の兆しはあるが、工作機械の国内生産の減少と中国の台頭は、世界の製造業を支える資本財輸出国としての日本の地位の揺らぎを感じさせる。

 工作機械に限らず、世界的な設備投資の落ち込みにより、日本の資本財関連メーカーは 苦戦を強いられている。工作機械の生産額で世界1位になった中国は、消費財だけでなく資本財の生産でも大きな存在になってきたことを示しているが、機械の性能や品質の高さでは、日本はまだまだ中国に水をあけている。技術の優位性をさらに強め、資本財供給国の地位を保持してもらいたい。

 財務省の2008年度の貿易統計によると、一般機械や電気機械など、モノを生みだす 資本財の輸出が全体の50%以上を占める。乗用車や家庭用電気機器などの耐久消費財は20%以下で、資本財がまさに日本の輸出の大黒柱となっている。工作機械は資本財製造業のごく一部に過ぎないが、日本の製造業と輸出の強みを象徴する存在といえる。しかし、主な供給先である自動車産業などの世界的不況で工作機械の受注も激減し、昨年の生産額は円高の影響も加わって前年比56・5%減の58億8890万ドルに落ち込んだ。

 これに対して、不況からいち早く立ち直った中国は、前年比8・9%増の109億5千 万ドルに生産額を伸ばした。ドイツは35%減の78億2160万ドルで、これまで通り2位に踏みとどまった。

 日本にとって明るい材料は、昨年12月から受注額が増加に転じたことで、2月は前年 同月の3・2倍に増えた。日本の高性能の工作機械を求める中国、韓国企業からの受注が好調なためという。

 ただ、大幅増といっても受注水準はまだリーマンショック前の半分程度である。世界的 には設備過剰のため、工作機械を含む資本財製造業の早期の生産回復は厳しいとの見方があり、内需掘り起こしの政策支援を求める声もある。政府の検討課題であろう。