『シャーロック・ホームズ』の大活躍で2010年が始まった。
　ロバート・ダウニー・ジュニア演じるホームズと、ジュード・ロウ扮するワトソンの迷(名)コンビが、観客を19世紀末のイギリスへと連れて行ってくれる。ビクトリア朝（1837〜1901）が背景だが、ガイ・リッチー監督による、現代に通じるストーリー展開と画面作りで古さは感じしない。主役のふたりの演技ゆえかもしれない。それでいて時代感はとらえている。
　知らない人はいないであろう、世界的に超有名な私立探偵シャーロック・ホームズ。コナン・ドイルが1887年から1927年の40年間に４冊の小説、56の短編で、ホームズと忠実な相棒ドクター・ワトソンの痛快謎解きストーリーを紹介している。
　ジュード・ロウは本作全米公開時は、ブロードウェイで「ハムレット」をやっており、NYまで取材に行って、彼の素晴らしい舞台も見た。リッチー監督はロンドンから衛星中継、ダウニー・ジュニアにはＬＡでと、ばらばらの取材。

　千秋楽まで２週間とせまった昨年11月の終わりに、マンハッタンのホテルでジュードをインタビューした。毎朝45分間、喉に蒸気をあてていたそうだけど、かすれ声だった。
「最終日の12月６日で、合計200回のハムレットを演じたことになる。水曜と土曜はマチネがあって昼と夜で６時間半舞台に立つ。精一杯やったとはっきり言える。精も根も尽き果てた」と清々しい表情のジュード。

──『シャーロック・ホームズ』の撮影を終えてから、ハムレットのリハーサルに入ったわけですが、ワトソン役がハムレットの役作りに与えた影響はありますか？

「なさそうだけど実はあるんだ。共演したロバート・ダウニー・ジュニアが教えてくれた。絶対にこれでいいと思うなって。彼は常に何か新しいものを吹き込もうと、力を抜かない。その手抜きしないやり方に合わせるうちに、ホームズとワトソンの関係がどんどん進化していくのを体験したから、ハムレットのリハーサルがスタートしたとき、どんなアイデアもトライしてみよう、これでいいやとあきらめるなと自分を叱咤激励し続けた」

　確かに素晴らしいハムレットだった。『コールドマウンテン』で共演したNYっ子のナタリー・ポートマンも「ジュードのハムレット最高。今まで見たハムレットの中で一番だった」と絶賛していた。

──ジュード、あなたにはホームズとワトソンのような絶対的な信頼関係で結ばれてる"相棒"はいますか？

「うーん、幼なじみで役者仲間のジョニー・リー・ミラーだな。25年以上の友達だよ。出たり入ったり合計10年くらいルームメートでもあったんだ。一番好きなのは正直なところ。イヤなことはイヤ、嫌いな人は嫌い、とはっきりしてる。僕はそのへんちょっとファジーで、なんでイエスと言ってしまったんだろうと後悔したりするからね。彼は僕にとって永遠よりもっと長く信頼できるヤツってことだ」

──ガイ・リッチー監督の『ホームズ』が今までと違うところは？

「ワトソンに関していえば、コナン・ドイルが意図した人物像に戻ったね。ワトソンを、ホームズの足を引っ張る笑える相棒と思っていた読者がけっこう多い。実はドイルの原作にそんな描写は１行もない。ワトソンはアフガニスタン戦争で負傷した軍医なんだ。早期除隊でロンドンに戻ったという設定なので、足がちょっと不自由。杖をついてるだろう？　医者だから事件の謎解きにも理路整然と当たる。ホームズと対等な相棒なんだ」

──監督が最近ヒット作に恵まれていないことは不安じゃなかったですか？

「そんなことを判断の基準にしてたら、僕を雇ってくれる人なんかいないよ（笑）。映画の善し悪しはあくまでも自分なりの判断でなければね。僕はガイ・リッチー的映画要素がいつも好きだった。彼なら面白いシャーロック・ホームズができ上がると思ったんだ」

──これからの予定は？

「ロンドンの郊外に家を買った。NYにいたからまだ住んでないんだけど、いわゆる田舎に住むのは初めてで楽しみにしてる。しばらく休暇をとって声を戻さないと」

──ところで『シャーロック・ホームズ』続編は？

「まだ正式に話をしたことはない。ただロバート、ガイ、ジュードの３人はこのストーリーに恋をしてしまった。撮影の間に湧き出た無数のアイデアに、今回は使えないけど次にねという会話はあった。それに、宿敵モリアーティの正体も暴いてないしね」