胃=田+月

板東浩

 今回は、肥満について最後の話になります。大切なポイントを少し復習
してみます。肥満とは身体に脂肪が必要以上に多い状態です。筋肉もりもり
の男性や、隠れ肥満の女性などがあり、見かけだけでは判断ができません。
しかし、普通の体格の人では、体重が多ければ、脂肪の量が多いと考えら
れます。理想体重(kg)は身長(m) X 身長(m) X 22という式で求められ、
理想体重より2割以上多ければ「肥満」と言えます。肥満症の人は、通常の
人と比べて、糖尿病、高血圧、胆石症、痛風、心臓病などの合併症が多く
起こります。ですから、肥満症をそのまま放置しておくのは得策ではあり
ません。肥満症治療の2本柱は、食事療法と運動療法です。
 徳島大学医学部附属病院の栄養管理室の高橋保子室長は、食事療法について
話をしました。その中で、各自の生活に応じた摂取カロリーを計算し、
バランスよく規則的な食生活が大切であることを強調しました。
 徳島大学開放実践センターの田中俊夫先生は、運動療法について触れま
した。やせやすい運動はきつくない運動で、ウォーキング、ジョギング、
踏み台運動、固定式自転車、水泳・水中歩行などがあります。いずれも、
30分以上続けられるもので、「にこにこペースの運動」が効果があることを
紹介しました。
 先週は、摂食中枢(空腹中枢)と満腹中枢の話をしました。肥満の人は、
美味しそうな食物を見たり、かぐわしい匂いを嗅いだり、すこしお腹がすく
だけで、空腹感を強く感じて食べたいという強い衝動が起こります。
これらは、摂食中枢が敏感すぎるからなのです。一方、食べ始めると止まら
なかったり、「お腹がいっぱいになった後でも、甘いものなら別のところに
入るから大丈夫」という事もよくききます。これらは、満腹中枢の働きが
鈍くなっている可能性があります。
 このように、肥満者は、摂食中枢と満腹中枢のバランスに、「ずれ」がある
と言えます。また、「そんなに食べていないのに太る」という話もよく聞き
ます。本人が思っている量と実際に食べた量とは食い違っており、現実の
認識力にも「ずれ」があるようです。
 たくさん食べていると、胃自体がその食習慣を覚えてくるのでしょうか。
「胃」という漢字は、「田」の下に「月」と書きます。田は脳みそを表し、
月(にくづき)は、身体を表します。これは、中国では昔から、胃の中に脳が
あり、人は胃でものを考えると思われていたからです。確かに、心配事が
あると胃の調子が悪くなって食欲がなくなったりします。しかし、実際は、
胃ではなくて、頭の中の脳で判断しているのですね。
 巷には食欲を刺激する情報が氾濫しています。どんな理性的な人でも、
美しい人の魅力に惹かれてしまうように、美味しい食べ物の誘惑に負けて
しまうかもしれません。そうならないように、肥満症のまとめとして、
次の言葉を贈ります。
「食べ物は頭で取って、身も心もスマートに」